6−3−3 最新活動時期、単位隆起量、および地震の再来間隔の推定

八郎潟北岸地区では沖積面群の汀線高度の読み取りから以下ことが示される。

@ 能代地震による隆起域に相当するA3面の汀線高度は、最大隆起部で標高1.0〜1.3mにあり、能代地震以降の海水準変動や能代断層の運動以外の変動に伴う隆起、沈降を無視できるとすれば、能代地震による断層隆起側の単位隆起量を示す。

A 能代断層隆起側は東への傾動を伴って上昇し、より高位の沖積面で傾動量が累積的に大きくなる傾向が認められる。

B 縄文海進の最大海進期の面と推定される最高位沖積面の汀線は標高約8mにあり、最大海進時の海面高度を現海水準+4mとすると、0.5m/1,000年程度の平均隆起速度が得られる。

八郎潟北岸地区の沖積面群のうち、最高位沖積面の汀線は標高約8mにあり、能代地震の際の隆起量を差し引くと約7mになる。最大海進期の海面高度を現海水準+4mと仮定してもさらに約3mの隆起を想定する必要がある。また、各面の汀線高度の傾動量を比較すると、A3面→A2面→A1(中位)面の順に傾動量が累積的に大きくなる傾向が認められる。

沖積面群の中には最大海進期以降の海水準変動や能代断層以外の変動に伴う隆起によって形成された面が存在する可能性もあり、能代断層の変動による面とその他の原因で形成された面とを識別する必要がある。

図6−3−3に、断層隆起側と沈降側とにおいて、能代断層の変動による面とその他の原因で形成された面とで汀線高度分布や堆積物の離水年代にどのような影響を与えるかを概念的に示した。

(a) 海水準変動によって形成された面の汀線は、断層沈降側の沈降速度が後の海面変動に比較して小さい場合、沈降側へ連続する可能性がある。これに対し、隆起によって形成された汀線は、沈降側ではより新しい地形面に埋没、消失する。

(b) 海水準変動によって形成された汀線は、さらに低位の面がつくる汀線の傾動量、撓曲量に対して累積性を持たない。これに対し、隆起によって形成された面では累積性を示す。

(c) 海水準変動によって形成された面の堆積物は、断層沈降側の沈降速度が後の海面変動に比較して小さい場合、離水年代が隆起側と一致する可能性がある。これに対し、隆起によって形成された面の堆積物は沈降側でより新しい堆積物に埋没し、若い離水年代を示す。

このうち(c)については実際に堆積物を把握する必要があるが、(a)と(b)とについては現時点で以下のように検討される。

(A) 下位のA2、A3面の汀線は、隆起側の連続性が良く、沈降側では消失するように判読される。A1(低位)面の汀線は大曲西方に数百m程度連続する小規模な浜堤の位置に想定されるだけであり、連続性は不明である。A1(中位)面の汀線は川尻付近において断続的に分布する浜堤の位置に想定されるが、沈降側は海浜部から成長した新期砂丘に覆われ、連続性は不明である。

(B) 最下位のA3面の汀線は現在の湖面に対して傾動しているとみられ、能代地震によって隆起したと推定される。A2面の汀線の傾動はA3面よりやや大きく、隆起によって形成された可能性がある。A1(中位)面の汀線の傾動はA2面よりやや大きい。しかし、A1(中位)面とA1(低位)面のいずれが隆起によって形成されたかは不明である。

以上のことから能代断層は縄文海進の最大海進期(約7000年前)から能代地震(西暦1694年)までの間に、2回程度の断層変位があった可能性が指摘される。その場合、地震の再来間隔は2,000〜3,000年と推定される。

表6−3−1 平成12年度調査段階での能代断層の活動性評価

表6−3−2 「1:5,000国土基本図」に基づく変位速度等の読み取り結果一覧表

図6−3−1 能代断層隆起側の上昇速度および逆向き断層の変位速度

図6−3−2 米代川南岸の藤本(1986)が検討したボーリング資料  と最終氷期から縄文海進期の海水準の関係

図6−3−3 断層による隆起と海水準の変化に伴う汀線上昇の概念図