2−5 微動観測データ

微動は、地表面の極めて微弱な振動であるが、適当な観測機器を使えば、いつでもどこでも容易に観測できる。このような微動も、弾性論的には主に実体波や表面波の集まりである。そこに、(1)複雑な微動源の情報、(2)微動の伝わる経路の情報、(3)観測場所の地下構造の情報などが含まれている。微動を利用した地下構造の推定法は、制御震源からの波形を位相的に扱う反射法地震探査や屈折法地震探査などとは異なり、原理的には微動の時間的空間的スペクトル特性を確率過程論に基づいて扱う探査法である(物理探査学会,1998)。

表面波には、周波数(周期)によって伝わる速度が変わる分散の性質がある。分散は、地下構造を反映した現象であるから、その分散が分かれば、原理的には地下構造を推定することができる。微動探査法は、基本的には微動に含まれるこの表面波の分散を推定する方法である。ただし、表面波の分散特性は、現在、理論的には平行な成層構造についてしか解くことができないために、微動探査法によって得られる地下構造は平行層で近似される。したがって、得られる地下構造は従来の地震探査法より精度は低い。しかし、平行層近似とはいえ、この方法には各層の物性値をS波速度で与えるという、従来の探査法にはない特徴がある(物理探査学会,1998)。

仙台平野における微動観測は、源栄ほか(2001)による常時微動単点移動観測(1997年に23地点、1999年に42地点の計65地点:表2−5−1及び表2−5−2参照)と、佐藤ほか(1998)による常時微動アレー観測(計6地点:表2.5.3参照)とが行われている。常時微動単点移動観測については65点中15地点のS波速度構造解析結果を、また常時微動アレー調査については6地点すべてのそれを収集した。図2−5−1にこれらの観測点位置を示す。なお、図中の青丸及び青二重丸横の添え字は、表2−5−1表2−5−2表2−5−3に示したNo.と対応している。

源栄ほか(2001)は、微動の水平成分と上下成分のスペクトル比(H/V)に着目して微動データの解析を実施し、仙台地域の深部地盤構造の推定及び強震動予測を行っている。図2−5−2は、東北大学大学院工学研究科災害制御研究センター源栄教授よりご提供していただいた「常時微動単点移動観測によるS波速度解析結果」を基に作製した東西方向(A−A'断面,図2−5−1参照)の断面図である。図2−5−1からS波速度3,000m/secの層が基盤と考えられ、その上面深度は折立小学校地点で1,011mであるが、東に向かって浅くなっており、鶴巻小学校地点では570mとなる。さらにその東の中野小学校地点では637mと鶴巻小学校地点のそれより約70mほど深くなっているのが分かる。

佐藤ほか(1998)による東西方向、南北方向(B−B'断面、C−C'断面,図2−5−1参照)のS波速度構造解析結果を図2−5−3示す。佐藤ほか(1998)では、S波速度約3,500m/secの層を基盤としており、その深度は、長町−利府線の西にあるKATAでは約900m、東にあるOKINでは1,100mと、東に向かって深くなっていると推定している。さらに東の海岸線に近いARAHでは約550mと浅くなっていることが分かる。南北方向の基盤深度では、北からTAMAの約250m、TRMAの約530m、OKINの約1,100mと南に向かって深くなった後、IWANでは約920mと約180mほど浅くなっている。

図2−5−2の鶴巻小学校地点と図2−5−3のTRMAは同じ小学校での観測結果であり、基盤深度はそれぞれ570mと約530mとなっている。この他、同じ地点(敷地内)で行われたものは、沖野小学校地点、荒浜小学校地点がある。これらの基盤深度は、源栄ほか(2001)によるとそれぞれ785mと618m、佐藤ほか(1998)によるとそれぞれ約1,100mと約550mとなっている。両者の解析結果では、最大で沖野小学校地点での約300mの差がある。一般的には、単点移動観測よりもアレー観測の方が精度は高いとされているが、現時点では判断できない。

源栄ほか(2001)は、基盤のS波速度を3,000m/sec、佐藤ほか(1998)は基盤のS波速度を3,500m/secとしており、いずれの速度値も仙台Brの深度693m以深のS波速度3,260m/secと近い値になっている。しかしこの仙台Brの速度値3,260m/secは、上述のように、徐々に増加する基盤のS波速度を、速度表記上の関係で分けた可能性もある。微動探査の解析の過程で、基盤速度を拘束条件として使用することもあり、この場合は、基盤速度の違いにより解析された速度構造も変わる可能性が高い。三畳系利府層を地震基盤とした場合、その速度をこの層上部の値とすると、それから徐々に速くなる速度構造をどの様に地下構造モデルに反映するか、微動探査の解析方法も併せて、今後検討する必要がある。