3−5−2 今調査で用いた調査法の適用性に関する検討

微動アレイ探査結果と人工地震データの再解析結果・強震計データの解析結果の比較図を図3−5−1に示す。また、微動アレイ探査結果をもとに修正したモデルを以下のように作成した。(図3−5−2−1図3−5−2−2

モデル1 強震計データ解析結果によるモデル

モデル2 P波速度5.5km/s層上面深度はモデル1を採用し、P波速度4.8km/s層上面深度について微動アレイ探査結果をもとに作成したモデル

モデル3 P波速度4.8km/s層・5.5km/s層ともに微動アレイ探査結果をもとに作成したモデル(Y−LA4についてはS波速度3.5km/s層は求められていないが、その上面深度を10kmとした)

図3−5−1からY−LA1およびY−LA3、Y−LA5に関しては、P波速度4.8km/s層上面深度とS波速度約3km/s層上面深度はよく対応しているが、P波速度5.5km/s層上面深度とS波速度約3.5km/s層上面深度との対応は良くないことがわかる。

そこで上記の3つのモデルを用いて、1998/08/29(千葉中部)と1998/11/08(千葉北西部)の2つの地震に対して走時計算をおこない、走時遅れ分布を求めた。観測データと各モデルにおけるP波およびS波の走時遅れ分布の対比図をそれぞれ図3−5−3図3−5−4に示す。以下に計算結果の比較についての考察を記す。

・モデル1と2を比較すると、観測データにおける横浜市中央やや西より(旭・保土ヶ谷区)の走時遅れが少ない部分を説明するにはモデル1が適している。

・微動アレイ探査では横浜市北部において基盤深度があまり変化していないため、モデル2の結果では横浜市北部における走時遅れの変化があまり見られない。この点からも観測データを説明するにはモデル1が適している。

このように、強震計データ解析結果と微動探査アレイ結果に有意な違いが見られるが、この原因として以下に示すことが考えられる。

・強震計データ解析及び人工地震データ再解析では、地震基盤以浅の速度構造を1層あるいは2層構造と単純化しているため、地震基盤の深度や地震基盤以浅の速度構造の決定精度は、微動アレイ探査に比して低いと考えられること。

・微動アレイ探査において、アレイの大きさや長周期帯域(周期7秒程度)における微動のパワーが小さいことなどから、深度4km以深の速度構造の決定精度は低いと考えられること。

したがって、深度10km以浅の速度構造を推定するには、以下の方針のもとに解析をおこなうことが妥当であると考えられる。

・強震計データの解析により、深度10km程度までの大局的なP波、S波速度構造を推定する。

・反射法探査や微動アレイ探査から求められる浅部の詳細な構造をもとに、そのモデルの修正をおこない、深部から浅部までの精度の高い速度構造を求める。

このように、異なった探査法をその適用限界を考慮し組み合わせることにより詳細な速度構造を推定することが出来ると考えられる。