(2)横浜市地下構造調査における微動アレイ探査 (横浜市南部地域) 調査結果

1.概要

1.1 調査件名:横浜市地下構造調査における微動アレイ探査(横浜市南部地域)

1.2 調査目的:横浜市域の地下構造を把握するために実施する各種探査の内、微動アレイ探査を実施し、地震波のうちS波の速度構造を解析し、他の調査法とあわせ、地下構造解析の総合的な検討の資料とする。本調査では、横浜市域全体(南部)の地震基盤までの地下構造を把握する。

1.3 調査実施期間:平成10年11月13日から平成11年3月26日

1.4 横浜市地下構造調査委員会の構成:

調査は、横浜市地下構造調査委員会を設置して行った。委員会の構成は、以下のとおりである。

表3−4−2−2−1

1.5 調査担当:株式会社ダイヤコンサルタント関東支社横浜支店

(横浜市中区太田町4−48川島ビル)

東京事業部資源物理探査部

(埼玉県大宮市吉野町2−272−3)

1.6 調査結果の概要:

横浜市南部地域の地下構造を把握するために実施した微動アレイ探査(小アレイ10地点、大アレイ3地点の計13地点)によって、全地点の位相速度曲線(分散曲線)を求めることができ、当初の目的を達成することができた。このうち、大アレイ3地点については、位相速度曲線から逆解析により1次元のS波の速度構造を推定することができた。この微動アレイ探査の調査手法は、反射法地震探査や屈折法地震探査などの他の調査手法で得られた速度構造と概ね整合性が良く、しかも、人口が密集している都市部において、無理な測線設定や危険な爆薬震源などを伴わない画期的な調査手法であることが確かめられた。ノイズの多いような市街地でも深部のS波速度構造を直接的に求めることができ、堆積平野の深部地下構造把握の調査手法として十分に適用できることを確認した。

2.調査内容及び調査の流れ

2.1 調査地の地形・地質概要

本調査の微動アレイ探査地域は、横浜市南部地域である。以下に、横浜市周辺の地形・地質の概要を述べる。

・地形(地質調査所1982、横浜市1997)

横浜市は、関東平野の南部、東京湾の西方にあってその地形は大きく、丘陵地、台地、段丘、低地及び埋め立て地に区分される。

丘陵地は、三浦半島から北方に連なる標高60ないし80mの開析の進んだ地形を呈し、横浜市を南北に縦断している。

台地は、下末吉面としての平坦面を残す地形であって、東京湾側にあって模式地である横浜市北部、下末吉台地から南方へ連なる。平坦面は、標高50〜60mで東方に向かって低くなる傾向がある。また、台地や丘陵を開析している河川沿いには、段丘面が局所的に認められる。

低地には、帷子川及びこの支谷などが丘陵や台地を刻むが、この谷底は平坦で埋積谷の形態を示す。海岸部には、埋め立て地が造成され、旧海岸沿いの急崖は、見掛け上「内陸」に入ってしまっている。

・地質(地質調査所1982、横浜市1997、綾瀬1993)

地質は、下位より順に深部構造を支配する深層基盤としての先第三紀層、その上の耐震基盤としての新第三紀三浦層群、そしてその上位に第四紀更新世前期上総層群、更新世中期〜後期相模層群(最上部は下末吉面を形成)、更新世後期の段丘(武蔵野面)を形成する砂礫層及びローム、完新世のいわゆる”沖積層”から構成される。

地質分布の特徴として、深層基盤はおよそ北から南に順に新しく、その上位の浅層の地質は、逆に南から順に新しくなる。この原因は、深層基盤の地質が、中生代から新生代初頭にかけて南から日本列島に付加された堆積物であるためで、これに対し、浅層の地質は新生代末に生じた関東構造沈降盆地形成に伴う北側の沈降(関東平野南部から見て)によって、北側により新しい地質が堆積したためと推定されている。

横浜市地域の深層基盤は、先第三紀層の中生代白亜紀の四万十帯が分布すると考えられ、分布深度は2,000〜3,000m(部分的には4,000m以上)、弾性波速度はVp4.8〜5.7km/sec、Vs3.0km/sec程度と考えられる。

2.2 調査手法

第1回の委員会において、2.1で述べたような本調査地の地形・地質概要を考慮して、調査地の鉛直方向のS波の速度構造を明らかにすることが必要である結論に至った。また、横浜市全域のS波速度構造(地震基盤までの深度を対象とした構造)を把握するための調査法として、観測条件の比較的悪い市街地でも十分対応できる微動アレイ探査の適用が有効であるという認識に至り、調査方法、仕様及び調査箇所についての説明がなされた。

本調査を実施するにあたっての注意点等については、第1回〜第3回の委員会で決定した調整事項等を遵守するようにとの指導があった。以下に、委員会において指摘された項目について、@観測仕様、A解析手法の2つに分けて示す。

@観測仕様

・地震計設置にあたって水平距離と高低差の許容誤差は、水平距離はアレイ半径の5%、高低  差は、最小地震計間隔で定まる波長の数分の1以下にすること。

・昼間、静穏な場所でもノイズは発生していることから調査は夜間とする。

・ローパスフィルターの遮断周波数は10Hzではノイズが多すぎるので5Hzとする。

・地震計は、故障が発生した場合等においても必ず7秒計を使用する。

・使用する機器の特性を把握するために、事前に周波数特性を確認しておくこと。また、委員会の立ち会いによるハドルテストを平成11年1月12日に行い、地震計の整合性を図ること。

・毎回の観測直前にハドルテストを行うこと。計器特性のずれ等がある場合は、その測定は行わないこと。また、計器特性のずれの許容範囲については、解析精度のかね合いで確認してお  くこと。

・ハドルテストの結果について、グラフには単位を必ず記載すること。また、測定結果の出力フォーマットは、(株)ダイヤコンサルタントと中央開発(株)で統一させること。

A解析手法

・本観測を実施する段階の早い時期にベンチマークテストを実施し、解析結果の普遍性を確かめておくこと。

・大アレイの解析における地下構造の初期モデルの設定については、「横浜市地下構造調査に伴う解析業務委託」の結果を用いること。

・解析のアルゴリズムについては、委員会の承認を得ること。

・最初にアレイ探査を実施した地点について、位相速度等解析結果を委員会へ報告すること。

2.3 調査のフロ−

微動源は、一般に時間的にも空間的にもランダムに存在するために、微動の到来方向を予測することは不可能である。しかし、微動がアレイ内に時間的にも空間的にもランダムに存在する場合は、それについて微動に含まれる表面波の分散の形で検出できるアルゴリズムが開発されている。そのアルゴリズムの要請する最適なアレイ形が円形アレイである。

アレイサイズと可探深度の一般的な関係はない。しかし、数値シュミレーションによる「アレイサイズと推定可能な位相速度の最大波長との関係」についての考察例(宮腰他、1996)によると、SPAC法では、推定可能な位相速度の最大波長は、アレイの最大半径の10倍程度と見積もられている。

(1)観測方法

観測は以下の手順で行った。

・観測点の設置場所は、指示された12箇所について測量担当業者が位置誤差円(半径の5%)を含む小アレイ、大アレイの計画図を作成した。この時に可能な限り、コンクリートのたたきや舗装路面上に観測点(地震計の設置点)がくるように、かつ公道上にくるように測量担当業者と打ち合わせながら調整した。また、最小地震計間隔で決まる波長の数分の1以下の高度差になるように調整した。

・計画図をもとに現地踏査を実施し、設置場所の確保の可能性や車両、工場振動、野外重機等の非定常ノイズ(以後「非定常ノイズ」という)源の有無等を確認し、現況の変化している箇所や設置不可能な箇所について再度調整を行った。この時、委員の指導を受けて小アレイの配置が困難な場合は、大アレイに内包される範囲において移動を行った。

・観測点(地震計設置点)が私有地の場合は、所有者に許可を求めた。また道路を使用する場合は道路使用許可申請を行い、許可を得た。

・観測は、各点とも独立記録方式を採用し、地震計1台毎に記録器を設置して微動データを収録した。観測に際しては、地震計の水平を保ちつつ充分に地面と接するよう注意した。 

・観測に先立ち、使用する機器を近接設置して5分程度の微動観測を行うハドルテスト(キャリブレ−ション)を実施し、コヒ−レンス等を求めて使用機器の特性が揃っていることをチェックした。図3−4−2−1−1図3−4−2−1−2に一例を示す。

・観測は非定常ノイズの少ない時間帯である深夜(22:00〜翌6:00)に行った。

・通常の観測時間は、60分間としたが、アレ−サイズや現場状況によっては、80分間の観測を行った。デ−タのサンプリングは100Hz(10ms)とした。また各地震計による微動観測開始時間の誤差は、50ms/day以下とした。GPSの時刻更正については、必ず観測開始前に実施した。

・観測が終了し、デ−タを吸い上げ、波形のチェック、スペクトルの分析等を行って得られた結果について、観測されたデ−タが解析に使用できないと判断された場合には、再度観測を実施することとした。

表3−4−2−1に観測日時一覧、表3−4−2−2に観測で使用した主要機器一覧及び表3−4−2−3に観測仕様一覧を示す。なお、後述する共通ハドルテスト及びベンチマークテストについて、主要機器及び観測仕様は、本観測と同じである。

(2)解析方法

解析作業は、位相速度の推定とS波速度構造を推定する逆解析の大きく2つに分けられる。

@位相速度の推定

図3−4−2−2に示したフロ−に沿って位相速度の推定を行った。解析諸元は次のとおりである。

・デ−タ編集  :  10Hzリサンプリング

・観測デ−タ長 :  約60分、80分

・ブロックデ−タ:  2,048サンプル(204.8秒)

・最大ブロック数:  24個(48サンプルオ−バ−ラップ)

・スペクトル分解バンド幅: 0.05Hz〜0.1Hz(パルゼンウィンドウ)

・座標入力   : 測量担当業者からの各観測点の位置座標を入力し、距離計算

・パワ−スペクトル及びクロススペクトル計算: 原デ−タの先頭、中間及び最後部のパワ−スペクトル計算による時空定常性確認とノイズ区間除去後のデ−タの計算

・空間自己相関関数及び空間自己相関係数の計算(SPAC法)

・位相速度の推定:

−アレイサイズ別に空間自己相関係数の曲線形から位相速度推定に採用する周波数範囲を決定する。すなわち、(a)周波数の上限は、アレイが見分け得る最短波長(=「空間エイリアジング」の生ずる波長、すなわち2観測点間の距離の1/2より短い波長は、原理的に見分けられない、その限界となる波長)で決まる周波数(理論的には、空間自己相関係数=J0(π)≒−0.30となる周波数)か、あるいはそれが不明瞭なデータの場合、空間自己相関係数が初めて極小(理論的には、空間自己相関係数≒−0.40)となる周波数、とする。(b)周波数の下限は、空間自己相関係数が推定されている最も低い周波数とするが、ただし、空間自己相関係数が周波数の減少とともに単調に減少する場合は、その減少し始める周波数とする。

−平行層で近似することが適当でない複雑な地下構造の場合、同じアレイサイズでもアレイの展開位置により空間自己相関係数に有意な差の生じることがある。その場合は、アレイサイズ別にこの曲線から直接位相速度を求める。有意な差のない場合は、それらを平均化し位相速度を求めるか、次のステップへ進む。

−周波数別に、アレイサイズ(図では便宜上「距離」(DISTANCE)と表示)を変数とする空間自己相関係数の推定値に最小二乗法により最適の0次ベッセル関数J0(2πfr/c)(ただし、fは周波数、rは距離、cは位相速度)を当てはめ、これを満たすcを推定位相速度とする。

−各アレイサイズについて(アレイサイズ毎に)求められた位相速度を統合し、最終位相速度を決定する。

AS波速度構造を推定する逆解析

求められた位相速度の分散は、レイリ−波の基本モ−ドであり、またアレイ直下の構造は、平行層であると仮定して、1次元のS波速度構造を求めた。

逆解析には、個体群探索分岐型遺伝的アルゴリズム(長他1997、以下「fGA」と称する)を用いた。図3−4−2−3に逆解析のフロ−を示す。

P波速度及び密度値についてはNafe&Drake(1964)の関係式を利用して理論分散を計算している。

2.4 調査地点及び調査範囲設定の経緯

図3−4−2−4−1図3−4−2−4−2図3−4−2−4−3図3−4−2−4−4図3−4−2−4−5図3−4−2−4−6図3−4−2−4−7図3−4−2−4−8図3−4−2−4−9図3−4−2−4−10図3−4−2−4−11図3−4−2−4−12図3−4−2−4−13図3−4−2−4−14図3−4−2−4−15図3−4−2−4−16図3−4−2−4−17に横浜市南部地域の調査地点を示す。図中には北部、南部地域の双方の使用機器の特性確認のための共通ハドルテスト地点及び解析の普遍性確認のためのベンチマークテスト地点(Y−LA3)も示した。以下に各地点の調査項目について、調査経緯等の概要を述べる。

(1)共通ハドルテスト

観測に使用する機器は、常に整備された状態にあることが原則である。この原則を遵守するために、機器の特性が揃っているかどうかのチェックを観測前に行う必要があった。

本調査は、横浜市域の北部地域(担当:中央開発(株))と南部地域(担当:(株)ダイヤコンサルタント)とに分かれ、それぞれの地域で使用する観測機器が異なるため、同一地点において両者が観測を行い、双方の機器の性能を確認した。

共通ハドルテストは、平成11年1月12日に東京工業大学総合理工学研究科において、横浜市全域(北部地域及び南部地域)における微動アレイ探査観測の前にさきがけて行われた。

ハドルテストの作業手順を以下に記す。

@地震計の設置(配置)

屋外にて、観測に使用する地震計7台を同一の地盤状態の場所(コンクリート、土など)に、できるだけ狭い範囲内(約1坪の範囲内)にあるように設置する。

A記録器の設定

記録器にパソコンを接続し、測定開始時刻、データ長、ゲイン、サンプリング間隔、フィルターなどの測定条件を設定する。設定方法については、具体的にパソコンのコントロール・ソフトを用いて、コマンドを入力することにより行う。

設定終了後、記録器と地震計を接続する。

B測定

観測を行う前に時刻の更正を事前に行い、Aで設定した開始時刻が来ると、自動的にこの 時間から各記録器が同時に測定を始め、10分間の微動データを取得する。

Cデータの回収

測定終了後、各記録器にパソコンを接続し、収録された波形データをパソコンにコピーする。

D波形データのチェック

各々の波形データから、パワースペクトル、スペクトル比、コヒーレンス及び位相差を計算する。これらをパソコンの画面上に図示し、使用機器の総合特性が揃っていることを確認する。

確認の目安として、パソコンの画面上での波形の揃い具合(一致性の確認)、計算された各 々のデータの一致性を見て、事前に機器の特性が揃っているか、また機器の精度がどの程度であるかを把握する。

特に問題が無いようであれば、機器の特性が一致したと判断し、アレイの観測を実施する。

(2)ベンチマークテスト

ベンチマークテストは、共通ハドルテストを実施する目的と同様に、北部、南部のそれぞれの地域で使用する観測機器が異なるため、同一地点、同一時刻において両者が観測を行い、得られた波形記録及び解析結果を比較することによって、その結果に一致性及び普遍性があるかどうかを確認する目的で、平成11年1月31日及び翌2月1日の両日において、近傍に既存の微動アレイ探査資料があるY−LA3地点(北部地域)で実施した。

観測方法は、本観測と同様の仕様で行われた。各観測点には、北部地域の地震計UPS−SPACと南部地域の地震計LE−3D/5Sの2台を近接設置し、80分間の記録を取得した。

(3)本観測

本観測において、既存資料や他の地下構造調査手法(反射法、屈折法の両地震探査)結果との対比が可能となるように、微動アレイ探査小アレイの観測点を横浜市全域にわたり一様に配置し、さらに、市内を縦断するように深部地下構造まで求める大アレイを配置した。

アレーの形状は、二重正三角形とし、その各頂点及び重心の計7箇所(●印)に地震計を設置した。アレ−サイズは、小アレイでは、2つの正三角形の底辺をそれぞれ500m(アレイサイズS)、2,000m(アレイサイズL)とし、各1回ずつの計2回の観測を行い、大アレイでは、3つの正三角形の底辺をそれぞれ250m(アレイサイズSS)、1,000m(アレイサイズM)、4,000m(アレイサイズLL)とし、各1回ずつの計3回のSPAC法による観測を行った。

表3−4−2−4に横浜市南部地域の微動アレイ探査12箇所の中心点一覧を示す。別添資料集には、全調査地点の観測点一覧表を付した。また、図3−4−2−5にアレイの形状の配置を、表3−4−2−5にアレイ種別とアレイサイズ一覧を示す。

3.調査結果

3.1 共通ハドルテスト

(1)機器の性能確認

共通ハドルテストの結果は、図3−4−2−1−1図3−4−2−1−2に示したとおりである。特性比較においては、7台の地震計のうち、1台(ハドルテストでは、通常アレイの中心に配置する地震計を用いる)を基準値とし、他の6台との比較を行った結果を示したもので、使用した地震計のスペクトルの安定性、位相の一致性やコヒ−レンスの良好さを、明瞭に認めることができた。また、観測記録の一部においては、7台の地震計の波形はどれも良く揃っており、測定機器の一致性・安定性を確認することができた。全ハドルテストの特性比較の結果及び観測波形は、別添資料集に付した。

3.2 ベンチマークテスト(Y−LA3)

ベンチマークテストにおいて、北部、南部地域の双方で、ほぼ同様な結果が得られた。また、逆解析結果においても技術的な整合性が認められ、一致性及び普遍性があることを確認した。

(1)観測された位相速度

図3−4−2−6−1図3−4−2−6−2図3−4−2−6−3に観測記録例の一部を示した。また、図3−4−2−7にパワ−スペクトル例、図3−4−2−8にスペクトル計算を行った時間の観測波形記録を示した。スペクトルパタ−ンは、観測時間中にはほとんど変わらず、時空間定常性を確認することできた。全アレイの観測波形記録及びパワ−スペクトルは、別添資料集に付した。

図3−4−2−9に各地震計間の距離による空間自己相関関数(図中上段)と空間自己相関係数(図中下段)の一例を示す。空間自己相関関数を特定周波数ω0 について方位平均したものが空間自己相関係数である。この空間自己相関係数曲線が滑らかなベッセル関数型の変化を示し、標準偏差幅が狭いほど観測結果の信頼性が高い。また、この空間自己相関係数曲線の急傾斜部に対応する周波数領域において位相速度推定の信頼性が高い。Y−LA3地点で得られた空間自己相関係数は概ね滑らかなベッセル関数型の変化を示しており、観測結果の信頼性は高いと判断される。全アレイの空間自己相関関数及び空間自己相関係数は、別添資料集に付した。

図3−4−2−10に各周波数毎の最小二乗法によるベッセル関数のフィッティング例を示す。図中のエラ−バ−は、採用した空間自己相関係数の標準偏差幅を示している。全空間自己相関係数及び各周波数毎の最小二乗法によるベッセル関数のフィッティングは、別添資料集に付した。

図3−4−2−11に各アレイサイズ毎の位相速度を示す。アレ−サイズによる極端なばらつきは認められなかったが、周波数0.37Hz前後(周期約2.7秒)において、アレイサイズLの位相速度だけが異常値を示した。この原因は不明だが、この部分に関しては、他のアレイサイズの位相速度がほぼ同一の位相速度を与えていることからアレイサイズLのデ−タは使用せずに統合した。

最終的に統合した位相速度を図3−4−2−12に示す。求められた位相速度の解析結果は、周波数(周期)の下限0.14Hz(7秒)で位相速度2.5km/s、周波数(周期)の上限2.3Hz(0.4秒)で位相速度0.6km/sであった。

図3−4−2−13に南部地域((株)ダイヤコンサルタント担当分)、北部地域(中央開発(株)担当分)の双方の位相速度解析結果を示した。両者の位相速度の形状及び観測された周波数範囲は、ほぼ一致した結果となった。両者の相違点については、周波数0.2Hz〜0.3Hz間の位相速度曲線の形状が若干異なる程度であった。

(2)求められたS波速度構造

図3−4−2−14に南部、北部地域双方の逆解析の結果を示した。初期モデルには、応用地質(株)が、別件業務(横浜市地下構造調査に伴う解析業務)で作成したモデルを参考として用い、逆解析においては、個体群探索分岐型遺伝アルゴリズム(以下「fGA」とも言う;長他1997)を用いた。双方別々に6層構造で解析したインバージョン結果(fGA探索結果)は、その層厚及びS波速度についてもほぼ一致した値となった。

なお、ベンチマークテスト(Y−LA3)における逆解析の過程については、項目3.4の大アレイで後述する。

3.3 小アレイ(Y−SA11〜Y−SA20)

測定は、表3−4−2−1に示したように、平成11年1月19日〜2月12日の間で実施した。測定を行う際には、事前の用地交渉、周辺住民への広報対策を十分に行っていたため、トラブル等の発生はなかった。また、環境ノイズ(自動車・鉄道・工場等が発生する振動)に対しては、その発生状況をあらかじめ把握し、観測点や観測日時の選定を行った。これについては、後述する大アレイの測定も同様に実施した。再観測は、予想外の環境ノイズ及び天候不良によるものが原因で、平成11年2月9日〜2月10日未明の期間に2箇所について実施した。

(1)観測された位相速度

図3−4−2−15−1図3−4−2−15−2図3−4−2−15−3図3−4−2−15−4図3−4−2−15−5図3−4−2−15−6図3−4−2−15−7図3−4−2−15−8図3−4−2−15−9図3−4−2−15−10に南部地域の小アレイ全10地点のアレイサイズ毎の位相速度を示す。小アレイにおいて、2種類のアレイサイズから得られた周波数(周期)範囲は、観測場所によって異なるが、概ねアレイサイズLでは、0.16Hz前後(6.2秒)から0.5Hz前後(2秒)まで、アレイサイズSでは、0.5Hz前後(2秒)から1.5Hz前後(0.66秒)までであった。

アレイサイズ毎の位相速度は、観測点Y−SA17及びY−SA19を除いて、アレイサイズのLとSとで重複区間が存在し、比較的連続性が良く、極端なばらつきも認められず良好であった。Y−SA17及びY−SA19ともに2種類のアレイサイズの接続領域でギャップが認められた。Y−SA17についてはその理由が明らかではないが、Y−SA19においては、アレイサイズSの位置がアレイサイズLの中心からはなれており、浅層部の局所的な速度構造変化によるものと考えられる。統合に際しては、滑らかな曲線となるように接続した。

最終的に統合した小アレイの位相速度を図3−4−2−16−1図3−4−2−16−2図3−4−2−16−3図3−4−2−16−4図3−4−2−16−5図3−4−2−16−6図3−4−2−16−7図3−4−2−16−8図3−4−2−16−9図3−4−2−16−10に示した。小アレイにおいて、地震基盤の推定に必要とされる低周波側領域の0.2Hz程度までの位相速度曲線が全観測点で得られた。

(2)各位相速度の特徴

南部地域の全小アレイの位相速度を比較するために、図3−4−2−17に全アレイ(大アレイを含む)の位相速度を示した。小アレイについて、全観測地点における位相速度曲線を比較すると、Y−SA13、Y−SA16及びY−SA20の3アレイを除き、周波数が高い方から低くなるにつれて位相速度は一様に増加するような変化の傾向を示した。また、Y−SA13、Y−SA16及びY−SA20の3アレイについては、周波数0.2Hz前後に位相速度の凹パターンが現れた。現在のところ、このパターンについて、

@実際の地質構造の影響を受け、直下の基盤構造が横方向に変化している可能性

Aこの3アレイの地域において、アレイサイズLの大きさで観測できる位相速度は、周波数0.2Hz付近が限界である可能性

が原因として考えられる。

周波(周期)数0.2Hz(5秒)付近の位相速度は、およそ2km/s以下であり、北部地域と比較して全体的に低く、基盤より上位層の速度が低いことを示している。

3.4 大アレイ(Y−LA3〜Y−LA5)

測定は、表3−4−2−1に示したように、Y−LA3は平成11年1月31日及び2月2日、Y−LA4は同年2月11〜12日、Y−LA5は同年1月20日〜21日に実施した。Y−LA4については、パソコンの故障のため、2月8日に当初予定していた観測を中止し、再観測によってデータを取得した。

(1)観測された位相速度

図3−4−2−18−1〜図3−4−2−18−3に、南部地域の大アレイ3地点(ベンチマークテストのY−LA3も含む)のアレイサイズ毎の位相速度を示す。大アレイにおいて、3種類のアレイサイズから得られた周波数(周期)範囲は、観測場所によって異なるが、概ねアレイサイズLLでは、0.14Hz前後(周期の上限は7秒)から0.3Hz前後(3.3秒)まで、アレイサイズMでは、0.26Hz前後(3.8秒)から0.7Hz前後(1.4秒)まで、アレイサイズSSでは、0.6Hz前後(1.6秒)から3Hz前後(0.3秒)までであった。

アレイサイズ毎の位相速度は、Y−LA4を除きアレイサイズのLL、M、SSともに重複区間が存在し、比較的連続性が良く、極端なばらつきも認められず良好な結果が得られた。Y−LA4では、アレイサイズM及びSSの接合部にギャップが認められるがこれは、アレイサイズM及びSSの観測場所がアレイサイズLLの中心点とは異なる位置にあり、より海岸に近いため埋め立て地層の影響すなわち浅層部の局所的S波速度構造変化の影響が出たものと考えられる。

最終的に統合した位相速度を図3−4−2−19−1図3−4−2−19−2図3−4−2−19−3に示す。大アレイにおいても、地震基盤の推定に必要とされる低周波側領域の0.2Hz程度までの位相速度曲線が得られた。

(2)各位相速度の特徴

大アレイの位相速度について、図3−4−2−17に示した全アレイ(小アレイを含む)の位相速度から、Y−LA3とY−LA5については、周波数0.2Hz付近から曲線の傾きが変わる弓なり型のパターンを示す結果となった。これに対して、Y−LA4では、0.24Hz付近よりも低周波領域では位相速度の変化が緩やかになる傾向が認められ、誤差範囲も大きくなっている。また、Y−LA4において、1.4Hz付近よりも高周波領域では位相速度が0.5km/s以下となり、これについての原因として、アレイサイズM及びSSの観測場所が、アレイサイズLLの中心点とは異なる位置にあり、より海岸に近いためであると考えられる。

(3)求められたS波速度構造

図3−4−2−20−1図3−4−2−20−2図3−4−2−20−3に、大アレイ3つのfGAによる探索結果(5つの候補解)を示す。このインバージョン結果をもとにして、微調整を行い最終的に決定したS波速度構造を、図3−4−2−21−1図3−4−2−21−2図3−4−2−21−3に示す。

初期モデル及び逆解析については、3.2ベンチマークテストで前述したように、応用地質(株)が、別件業務(横浜市地下構造調査に伴う解析業務)で作成したモデルを参考として用い、逆解析においては、個体群探索分岐型遺伝アルゴリズム(fGAとも言う;長、岡田1997)を用いた。

表3−4−2−6に各大アレイにおけるS波速度及び層厚の一覧を示す。速度が急激に増加している深度は、Y−LA3で約3km、Y−LA4で約2km、Y−LA5で約4kmであり、速度のコントラストはそれぞれ1.75km/secから3.10km/sec、1.70km/secから2.60km/sec、1.77km/secから2.70km/sec、であった。

Y−LA3及びY−LA5の2アレイについては、6層構造で解析され、それぞれに対比する層厚及びS波速度は、概ね同じ傾向を示した。これに対して、Y−LA4は、速度の逆転層や、最下位層とされる2.60km/secの下位には別の速度層を推定することができなかった。

Y−LA4については、

@Y−LA3及びY−LA5とY−LA4との間には、物性的に違う地質が基盤に存在する可能性。

A Y−LA4でアレイサイズLLの大きさで観測できる位相速度は、周波数0.2Hz付近が限界などの原因が考えられる。

(4)既存資料との比較

逆解析に用いたS波速度構造の初期モデルを表3−4−2−7に示す。既存資料は、反射法地震探査、屈折法地震探査、既存微動アレイ探査及びボーリング調査の文献を参考として作成されており、応用地質(株)が、別件業務(横浜市地下構造調査に伴う解析業務)にて作成したモデルである。

ここで、図3−4−2−22−1図3−4−2−22−2図3−4−2−22−3に初期モデルによって計算された位相速度(図中実線)と観測された位相速度(図中〇印)の比較を示す。また、初期モデルからのfGA探索結果(5つの候補解(試行1,000回×実験5回))を図3−4−2−23−1図3−4−2−23−2図3−4−2−23−3にそれぞれ示す。図中の紫色の線が初期モデルであり、観測された位相速度とは多少のズレが見られる。以下に、個々の解析結果について述べる。

Y−LA3:周波数0.3Hz以上の領域において、観測された位相速度とfGA探索結果は、概ね一致したが、0.3Hzよりも小さい領域においては、初期モデルの4層構造では、位相速度とフィッティングしていない結果となった。

Y−LA4:周波数0.5Hz以下の領域においては、観測された位相速度とfGA探索結果の5つの候補解は概ね一致したが、0.5Hz〜1.1Hz間においては、位相速度とfGA探索結果が大きく隔たった。

Y−LA5:周波数0.2Hz以上の領域において、観測された位相速度とfGA探索結果の5つの候補解は、概ね一致した。0.2Hzよりも小さい領域においては、初期の4層構造では位相速度にフィッティングできない結果となった。

以上、3アレイに関して、初期モデルでは位相速度とのフィッティングが不十分と判断し、層数を増やして解析を行った。

図3−4−2−24に既存の地震探査(P波)と微動アレイ探査結果との比較を示す。既存資料は、P波の速度構造であり、直接的には比較できないが、速度構造は概ね整合性が良いことを確認することができた。また、地震探査で得られたP波速度構造とS波速度構造とは、良い整合性が見られ、特にP波の4.7km/sec〜4.8km/secの層とS波の2.6km/sec〜3.15km/sec層の上面深度は良く一致している。

4. 微動アレイ探査法の適用性の検討

今後、微動アレイ探査を人口や建物が密集している都市部において、どのように適用していくのかについての検討を行った。本調査で得られた知見をまとめ、以下に述べる。

4.1 観測仕様及び使用機器について

以下の仕様及び機器を適用することにより、信頼性のおける観測データを取得することが可能であることを確認した。

・観測機器の性能:特性の揃った固有周波数7秒の地震計及び計測時間誤差50ms/day以下のGPS時計付記録器、5Hzのローパスフィルターの使用。

・観測時間:100Hz以上のサンプリング間隔、60分間以上の観測データの取得。

4.2 求められた位相速度の信頼性について

Y−LA3では、地震基盤層として考えられた深度3,330mに周波数0.14Hz(周期7秒)で3.10km/secのS波速度が求められた。ここで求められた位相速度の信頼性について、2.3の項でふれている数値シュミレーションによる「アレイサイズと推定可能な位相速度の最大半径との関係」に基づいて吟味する。これによると最大アレイ半径をR(m)、最小アレイ半径をRmin(m)、5%の誤差以内で求められる位相速度の波長をλ(m)とすると、

2Rmin ≦ λ ≦ 10R ・・・・・・・・・・・・・・ 式(1)

なる関係がある。

解析に供した最大アレイ半径を計算すると、正三角形の一辺の長さが4,000mであるから

最大アレイ半径 : 4,000 × 1/√3 ≒ 2,309 (m)

推定可能な位相速度の最大波長は、23,090(m)となる。一方、観測で求められた位相速度は周波数0.14Hz(周期7秒)で、極限の値で見積もると、3,100×0.95=2,945m/secであることから、波長は、21,035(m)となり、推定可能限界の範囲内にある。

同様に、Y−LA3アレイの最下層について、観測で求められた位相速度の信頼性を検討してみると、周波数0.14Hz(周期7秒)で、3,530×0.95=3,354 m/secであることから、波長は、23,957(m)となり、推定可能限界を越えている。このため、Y−LA3での最下層の位相速度は、真のS波速度を反映していないものと考えられる。

真のS波速度(Vs)を、約3.6km/s、4.0km/sと2通りであると仮定し、これを推定し得るアレイサイズを概略見積もってみる。今回求められた周波数0.14Hz(周期7秒)のレイリー波の位相速度としては、ポアソン比0.25で、0.92×Vs、極限の0.5で0.95×Vsより、最小で約3.3km/sec、最大で約3.8km/sである。すなわち、波長は23,570〜27,140(m)となり、上式(1)を参照し、アレイ半径は2,400〜2,800(m)、正三角形の一辺の長さは、4,157〜4,850(m)となる。

同様に、Y−LA4について位相速度の信頼性を吟味すると、地震基盤層として考えられた最下層の深度2,100mに周波数0.14Hz(周期7秒)で2.60km/secのS波速度が求められた。これより、波長は17,643(m)となり、推定可能限界の範囲内にあるといえる。

さらに、Y−LA5については、地震基盤として考えられた深度3,930(m)に周波数0.14Hz(周期7秒)で2.70km/secのS波速度が求められた。これより、波長は18,321(m)となり、推定可能限界の範囲内にあるといえる。また、最下層では、深度6,630(m)に周波数0.14Hz(周期7秒)で3,500m/secのS波速度が求められた。これより、波長は23,750(m)となり、推定可能限界を越えている。このため、Y−LA5での最下層の位相速度は、真のS波速度を反映していないものと考えられる。

真のS波速度(Vs)を、約3.6km/s、4.0km/sと2通りであると仮定し、これを推定し得るアレイイサイズを概略見積もってみる。Y−SA3と計算は同じであるので、最下層の真のS波速度を求めるためのアレイ半径は、2,400〜2,800(m)、正三角形の一辺の長さは、4,157〜4,850(m)となる。

4.3 アレイサイズ

以下に示すアレイ形状及びアレイサイズを適用することにより、固有周期7秒(周波数0.14Hz)の微動データを取得することが可能であり、信頼性のおけるデータを取得できることを確認した。

・アレイ形状:二重正三角形の各頂点及び重心の計7箇所に地震計を設置しての同時観測

・アレイサイズ:大アレイサイズで、底辺長250m、1,000m、4,000mの各正三角形、観測は、各アレイ1回ずつの計3回観測方式

4.2の項目で述べたように、大アレイY−LA4においては、地震基盤層と考えられる深度2,100mに周波数0.14Hz(周期7秒)で2.60km/secのS波速度が求められた。しかし、この地点では、2,100m以深にS波速度の構造の変化は認められず、この2,100m以深が最下層となるような結果となった。しかし、他の地点と比較すると明らかにS波の速度構造が異なっており、疑問視さらる。そこで、この地点では、当初計画のアレイサイズLLよりも大きなアレイで確認観測を実施し、サイズの異なったアレイでほとんど一致した位相速度が得られるかをチェックすることが望ましい。ただしアレイサイズが大きくなると、空間定常性の低下や平行層近似の仮定が崩れる可能性もある。現時点では、どこまでアレイサイズを大きくできるかの見極めは困難であり、微動アレイ調査法の限界を認識するためにも必要と考える。長周期側で現れる位相速度の拝みの現象についても同様で、速度構造によるものなのか信頼性によるものなのか、現段階での判断は困難である。

また、小アレイについては、浅層部に対応する周期1秒以下の(短周期側)の位相速度が求まっていない観測点があった。これは、小アレイのサイズSの三角形の底辺長が大きすぎたためであると考えられる。また、地震基盤までのS波速度構造を求めるためには、サイズLの三角形の底辺長が、逆に小さすぎたと考えられる。小アレイでは、位相速度1.9km/sec〜2.1km/sec程度までしか求まっていないが、大アレイでは周期7秒程度で2.4km/sec〜2.5km/secが求まっている。

今後の方針としては、本調査でデータを取得した小アレイに関して、大アレイのサイズSS及びサイズLLにてデータを取得することが望ましい。

4.4 気象との関連

微動のパワーは、気象現象と密接な関係があることは多くの研究で知られている。

図3−4−2−25−1図3−4−2−25−2に横浜及び千葉の気圧変化を示す。1999年1月3日から2月23日の約2ヶ月間の気圧の値は、990〜1030hPaの範囲で変化する結果となった。横浜と千葉において、気圧の変化はほとんど同じ傾向を示し、この期間においては相対的に千葉の気圧の方が横浜よりも高い値を示した。

また、図3−4−2−26に北部及び南部地域のパワースペクトルと気圧の時系列変化を、図3−4−2−27に北部及び南部地域における風速とパワースペクトルの関係を示す。気圧とパワースペクトルの変動との関係について、以下に記載する。

・横浜地域の長周期側の卓越周期は4〜6秒の範囲で分布しており、図3−4−2−26においてパワースペクトルの最も大きい波は北部及び南部とも5秒であった。

・5秒の波において、パワースペクトルは低気圧が通過した翌日に大きくなり、また、高気圧が通過した数日後に小さくなる傾向が認められた。

・数時間のうちに、パワースペクトルが10倍以上も変動した日も確認することができた。

・7秒の波についても概ね5秒と同様な傾向が認められた。

図3−4−2−27において、風速が増すにつれパワースペクトルも大きくなる傾向が認められた。

以上の結果から、気圧の変化や風速の変動に伴ってパワースペクトルも変動するような関係を確認することができた。低気圧の通過や風速が大きい時には波浪(風浪やうねり等)が大きくなり、この結果、微動のパワースペクトルも大きくなると解釈された。

4.5 解析上の課題

一方、解析面については、本調査法が統計量を扱うという観点から考えると0.22Hzより低周波数領域の位相速度推定の信頼度をさらに向上させるためには、解析に供するブロックデ−タ内に着目する周期の波(基盤のS波速度、深度を推定するに必要な5〜7,8秒)が、信頼できる位相速度が求まっている周期領域と同等の波数が含まれるようにする必要があろう。

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