(3)地質構造

甲府盆地は、後期更新世〜完新世の砂礫層が厚く堆積しているため、地表地質資料から盆地下の構造を推定することは、一部の周縁地域を除き困難であった。

近年、盆地内での多くの温泉・地下水採取・地盤沈下観測などの目的で、盆地中・東部を中心に掘削され、地下地質に関する情報が蓄積されてきた。海野(1991)では、それらの情報を詳細に解析し、甲府盆地の地下構造について総括的な記載を行っている。

海野(1991)によると、甲府盆地の地下地質は、上位から上部礫層、韮崎岩屑流、中部礫層、黒富士火砕流、下部礫層、石和礫岩層、水ヶ森火山岩、太良ヶ峠火山岩、甲府深成岩類により構成されている。海野(1991)で示された、甲府盆地の地下地質を表すパネルダイヤグラムを図3−1−1−8に示す。

盆地内で甲府深成岩類に到達した坑井は限られており、花崗岩類の分布詳細については不明である。図3−1−1−9に盆地内における深層ボーリング位置を、表3−1−1−7 にそれらのボーリングの一覧表を示す。

甲府深成岩類を覆う太良ヶ峠火山岩・水ヶ森火山岩は、竜王町から石和町にかけての盆地北縁部で確認されており、その分布高度は南方ほど低下する。太良ヶ峠火山岩・水ヶ森火山岩は、安山岩質の溶岩と火山砕屑岩の互層からなり、石和町などのテストボーリングでは、層厚460〜510mである。

また、盆地の地下を構成する地層・岩石の盆地内の地域による分布、層厚などの特徴についても明らかになりつつある。ボーリングデータにより描かれた韮崎岩屑流堆積物の等層厚線図を図3−1−1−10 に、黒富士火砕流堆積物の上限高度分布図を図3−1−1−11 に示す。

甲府盆地の地下構造の特徴として、以下の事項が挙げられる。

・地震基盤と推定される花崗岩類や第三紀火山岩類の分布深度は、北部では浅く、南西部に移るにつれて深くなる、あるいは既存ボーリングで捕捉されなくなる傾向が認められる。

・地震基盤を覆う新期の堆積物(下部礫層より上位の地層群)の層厚は、盆地南西部で最も大きくなる。

以上のことから、甲府盆地の新期の堆積盆形成過程は以下のようにまとめられる。 甲府盆地では、第四紀更新世に入り周辺山地の隆起あるいは低地部の沈降が起こり、低地部に四万十累層群、花崗岩類、火山岩などの侵食礫・砂・粘土が堆積した。本堆積層は、下部礫層と呼ばれ、盆地の広範囲に分布する第四紀の堆積物のうち、最も古い層準である。

100万年前頃、盆地北西部付近から噴出したデイサイトや安山岩質の大規模火砕流が時間間隙を挟んで、数回流出し盆地に堆積した。下部礫層を一部不整合に覆う本火砕流堆積物の中には、溶岩や湖沼堆積物も含まれる。この火砕流・溶岩を噴出した一連の火山活動は、黒富士火砕流と呼ばれ、40万年前頃まで続いたとされる(三村ほか、1984)。

盆地へ黒富士火砕流の流入が終わった頃、盆地低地部と周辺山地域との地形環境(盆地内の地形、河況など)に変化が生じ、河成堆積物が、現在の盆地中央部に最も厚く堆積した。この堆積物が、海野(1991)による中部礫層である。

中部礫層の堆積よりやや遅れて、盆地北西部の八ヶ岳火山から大量の岩屑流が盆地へ供給された。この頃、この盆地と周辺の台地・丘陵の比高差は今よりも小さく、この韮崎岩屑流の一部は、盆地周辺域をも埋積した。

韮崎岩屑流の流下・堆積後、周辺山地の隆起運動に規制されながら、盆地南西端を堆積の中心とする河成の堆積物が盆地のほぼ全域にわたり堆積した。本堆積物が、海野(1991)による上部礫層である。上部礫層は、盆地北西部では韮崎岩屑流を削剥しながら、盆地中央部一帯では韮崎岩屑流に整合的に累積した。

その後、盆地西縁や南東縁の一部では、山地に沿う部分が隆起したため、これらの地区では上部礫層堆積面が離水し、丘陵・台地地形が形成された。

以上記述した甲府盆地における第四紀堆積物の堆積過程を表3−1−1−8にまとめた。