5−1 微動アレー探査の原理

地球の表面は地震の無いときでも絶えず揺れている。人体が直接感じ取ることのできないような非常に小さい揺れを「微動」という。一般に、周波数1Hz以上(周期1sec以下)で卓越する微動は、主に車両・工場などの人工的な振動によって発生し、振幅には明瞭な日変化がある。このような短周期の微動を「常時微動」と呼ぶ。一方、周波数1Hz以下(周期1sec以上)の微動は、風・波浪・気圧変動などの自然現象によって発生し、それらの現象の強弱変化に応じて振幅が変化する。このような長周期の微動を「長周期微動」(あるいは「やや長周期微動」)と呼ぶ。

微動は時間的にも、空間的にも変化する振動現象であるが、弾性論的には実体波(P波、S波)や表面波(レイリー波、ラブ波)の集まりである。観測される微動は一般に、複雑な震動源、伝播経路、観測場所などの地下構造情報を、実体波や表面波の形で含んでいる。しかし、微動の発生源が主として地表面や海底面にあることを考慮すると、微動としては実体波よりもむしろ表面波のほうが優勢と考えるのが妥当である。このように、微動を表面波とみなして地下構造を推定する手法として、微動アレー探査法が開発された[岡田(1990)]。前年度調査と同じく、本年度調査でも微動の鉛直成分を観測するため、ここで扱う表面波は「分散性レイリー波」である。

表面波には、波の周期(周波数)によって伝播速度が変わるという性質がある。これを「分散」という。分散は地下構造と密接に関係しており、表面波の分散(すなわち、表面波の周期(周波数)と伝播速度の関係)が分かれば、原理的に地下構造を推定することができる。その推定の手順は、次の@〜Bのとおりである。

@ 地表に面的に展開した群列地震観測網(以下「アレー」と略記)による微動観測

A アレー直下の地下構造を反映した表面波分散関係の検出

B 表面波分散の逆解析による、アレー直下の地下構造の推定

微動アレー探査で推定される地下構造は、表面波分散の理論計算上の制約により水平成層モデルとして近似される。各層の主要な未知パラメータは、層厚およびS波速度である。