2−1−5 東京都周辺における既存微動アレイ探査

東京都及び,その周辺の千葉県,神奈川県,埼玉県では相当数の微動アレイ探査が実施されてきている。それらの一覧を表2−1−4−1表2−1−4−2表2−1−4−3表2−1−4−4に示す。また,これらの内,調査結果が明示されているものをまとめたデータシート及び,その結果から作成したS波速度構造柱状図を巻末付録3にまとめた。これらの調査は,地方自治体(文部科学省地下構造調査),地方自治体研究機関,大学などの研究機関で実施されてきたものである。調査結果は,それぞれの調査を実施した各調査機関で独自にまとめられており,一部参照し合うことはあっても統一的に検討されているとは言い難い。東京都における微動アレイ探査結果を検討する際に,これら周辺地域で実施された微動アレイ探査結果を有機的に関連させて参照することは重要であり,そのための準備として,これらの調査結果を統一的な視点で検討することとした。

まず,この地域において実施された微動アレイ探査成果の収集・整理を行なった。その結果,大別して以下の調査機関で実施されていることが分かった。収集した微動アレイ探査成果は,実施機関別に符号を付し,それに連番号を組み合わせる形で観測点番号を設定して整理した。以降,各観測点は,この観測点番号及び各参照資料において付された観測点コードを用いて参照する。以下に調査機関及び観測点番号の符号(括弧表示する)を示す。

@ 埼玉県環境科学国際センター(S**)

A 千葉県(C**)

B 川崎市(K**)

C 横浜市(Y**)

D 神奈川県(G**)

E 東京都(T**)

F 東京工業大学(U**)

G その他(P**)

(1)  埼玉県環境科学国際センター

埼玉県環境科学国際センターでは,1996年頃より埼玉県南部地域を主な調査範囲として微動アレイ探査を実施してきている。対象地域は,関東平野のほぼ中央部に位置し,北緯36度付近から南の埼玉県南部全域及び千葉県,茨城県の一部を含む東西約50km,南北約30kmの長方形領域である。この中に,ほぼ5kmメッシュで計67点の観測点が設定されている。図2−1−11−1に観測点位置図を示す。また,解析の際に既存データを積極的に活用し,この地域における3次元S波速度構造を求めている。そのS波速度構造断面図を図2−1−11−2に示す。これらのデータは,埼玉県環境科学国際センターのホームページにおいて公開されている(松岡・他2002)。

以上の他に東京都府中市にある防災科学技術研究所の府中地殻活動観測井付近及び千葉県沼南町にある同所の下総地殻活動観測井付近においても微動アレイ探査を実施している(松岡・他2000)。

(2) 千葉県

千葉県では,文部科学省地震関係基礎調査交付金事業において平成10〜12年度に千葉県北西部で26観測点,引き続き平成13年度から千葉県中部地域で10観測点の微動アレイ探査を実施してきている(千葉県2001,千葉県2002)。千葉県では,同事業中で浅部構造を対象とした小規模微動アレイ探査も実施されているが,ここでは含めていない。図2−1−11−3に観測点位置及び微動アレイ探査によって推定した基盤深度分布図を示す。解析は,北西部では6層または5層モデル,中部では5〜8層モデルで解析されている。千葉県中部では基盤深度が4km以上に解析されている観測点もあり,それらのモデル化に多くの層分割が必要になったのではと推察される。

(3) 川崎市,横浜市

文部科学省地震関係基礎調査交付金事業において,平成10〜12年度に,川崎市が川崎市内の4地点で,横浜市が横浜市内の8地点で微動アレイ探査を実施している(川崎市2001,横浜市2002)。図2−1−11−4に観測点位置図を示す。川崎市においては7層構造,横浜市においては概ね6層構造で解析が行われている。横浜市では同事業で中規模アレイ探査を実施しているが,アレイ規模のために深部構造の推定精度があまり高くない地点もある(神奈川県2001)とのことなので,ここでは含めていない。

(4) 神奈川県

神奈川県では,文部科学省地震関係基礎調査交付金事業において平成14年度に6点の微動アレイ探査を実施している(神奈川県2003)。調査地点は,川崎・横浜市では(3)でも述べたように独自に調査が実施されていることや,神奈川県西部では,既存微動アレイ探査が実施されている((6)参照)ことなどを考慮して神奈川県中部に設定されている。図2−1−11−5に観測点位置及び微動アレイ探査によって推定したS波速度構造図を示す。

 解析は6層モデルに設定し,6観測点のデータを同時解析している。

(5) 東京都

東京都では,平成10年度に東京都足立区から埼玉県川口市にかけての地域で実施された反射法地震探査に連携させて同地域で3地点の微動アレイ探査を実施している(東京都1998)。図2−1−11−6に観測点位置図を示す。解析は6層構造で行なわれており,反射法地震探査結果を参照して速度構造を求めている。図2−1−11−7にS波速度構造図を示す。

(6) 東京工業大学

東京工業大学では,山中浩明助教授を中心としたグループが関東平野全域にわたり微動アレイ探査を実施している(山中・他2002)。また,関東平野において深部地盤調査を目的として最初に実施したのも山中助教授のグループであったと思われる(山中・他1994,神奈川県2001)。この事例を始めとして山中助教授は東京工業大学助教授に就任される以前から微動アレイ探査の研究を実施されてきているが,便宜上ここで扱うものとする。図2−1−11−8に観測点位置図を示す。解析は概ね4層構造を用い,基盤速度は3.0km/sに固定して実施されている。図2−1−11−9にS波速度構造図の例を示す。

(7) その他

以上述べてきたものの他に,宮腰・他が神奈川県小田原市で,また,神野・他が神奈川県の足柄平野で,原子力発電技術機構が千葉県成田市で微動アレイ探査を実施している(宮腰・他1994,神野・他1999,原子力発電技術機構2002)。各観測点位置を図2−1−11−10図2−1−11−11図2−1−11−12に示す。