(2)S波速度構造の変化と地震波形との対応関係

札幌市震度計No.4(新琴似出張所,微動アレー地点No.23)では,理論波形が観測波形よりも小さな値を示す(前掲,図4−7−12)。図4−7−21は,同地点におけるS波速度平均前及び同・平均後の各モデルに対する地震波形,フーリエ振幅スペクトル,伝達関数及び位相速度の比較結果を示したものである。S波速度の平均化の影響が大きい深度範囲は表層〜1.0km付近及び3.3km以深(地震基盤以深)である。伝達関数を参照すると,周波数0.2Hz以上(周期5s以下)では,S波速度平均後の理論伝達関数がS波速度平均前の場合よりも全般的に小さくなっている。また,周波数0.6Hz以上(周期1.6s以下)の範囲では,S波速度平均前のモデルのほうが観測位相速度と良く対応している。したがって,表層に近い側のS波速度変化が観測波形の再現性に大きく影響したと考えてよい。

一方,図4−7−22及び図4−7−23は,平成15年度の解析結果によって地震基盤深度が大きく変わった微動観測点2ヶ所(No.16及びNo.26)について,新・旧の各物性値モデルに対応する地震波形,フーリエ振幅スペクトル,伝達関数及び位相速度を比較したものである。ここに,旧モデルとは,平成15年度でS波速度を各層ごとに平均して得たモデルを意味する。各図からわかるとおり,地震基盤深度の変化に対して,伝達関数や地震波形に大きな変化は見られない。しかし,地震基盤深度の変化が大きい微動観測点No.16では周波数0.6Hz以下(周期1.6s以上)の低周波側(長周期側)で観測位相速度との対応が改善されている。周波数1.0Hz以上(周期1.0s以下)で観測位相速度との対応が弱いのは,逆解析で求めたS波速度ではなく調査地域全体で各層ごとに平均化したS波速度を用いていることの影響である。また,微動観測点No.26では地震基盤深度の変化に対して理論位相速度の変化は小さい。

図4−7−21  S波速度構造の変化が地震波形等に及ぼす影響(1)

図4−7−22  S波速度構造の変化が地震波形等に及ぼす影響(2)

図4−7−23  S波速度構造の変化が地震波形等に及ぼす影響(3)