8−2 3次元地下構造モデル(第3次)の作成

上記(1)で述べたように,S波速度構造の地層区分線と同一速度層区分線とは浅部では比較的一致する場合もあるが,褶曲運動によって地層が沈み込んでいるようなところでは,同一速度層区分線は地層区分線ほど大きな深度変化は示さず,両者は一致しない。そこで3次元地下構造モデルとしては,地層区分に基づいたモデル(地質モデルと呼ぶ)と同一速度層区分に基づいたモデル(物性値モデルと呼ぶ)の2通り作成することとした。

ア 地質モデル

第四系基底,当別層(西野層)基底及び地震基盤(定山渓層群)について地質モデルを作成した。使用した深度データは次の通りである。

第四系基底深度,当別層(西野層)基底深度のデータ

・平成14年度及び平成15年度の反射解釈断面図

・微動S波速度構造を地層区分した結果(全35点)

・既存ボーリングデータ(岡,2003ほか)

地震基盤深度のデータ(=7章重力解析のコントロールデータ)

上記データ及び石油公団(1995)グリーンタフ上限地下構造データ

第四系基底,当別層(西野層)基底の等深度線図を図8−2−1図8−2−2に示す。地震基盤については,コントロールデータのみから作成した等深度線図を図8−2−3に,重力基盤深度をコントロールデータで補正した後の等深度線図を図8−2−4に,鳥瞰図を図8−2−5に示す。等深度線図の作成に当たっては,曲率最小化原理に基づいた内挿を行った。それぞれの等深度線図の特徴は次のとおりである。

(ア) 第四系(材木沢層)基底等深度線図(図8−2−1

第四系(材木沢層)基底は,調査地域の大部分で標高0m〜−600m付近に分布すると推定される。既存重力図(図3−5−3参照)で低重力異常が現れている豊平川右岸側(白石区東米里付近)において最も深く(標高−1000m程度),この付近を中心に第四系が山側よりも深くまで分布する。調査地域西側の山地と平野部の境界付近での基底深度は,標高0〜−100m程度と推定される。

(イ) 当別層(西野層)基底等深度線図(図8−2−2

当別層(西野層)は,第四系と同じように,既存重力図で低重力異常が現れている豊平川右岸側において最も深く(標高−3800m程度),この付近を中心に調査地域の東側では山側よりも深くまで当別層(西野層)が分布する。調査地域西側の山地と平野部の境界付近での基底深度は,標高−200〜−400m程度と推定される。

(ウ) 地震基盤面等深度線図(図8−2−3図8−2−4

図8−2−3では,地震基盤は既存重力図で低重力異常が現れている豊平川右岸側において最も深く(標高−5400m程度),この付近を中心に調査地域の東側では山側よりも深い。また,平成13年度反射法地震探査で捉えることができた月寒背斜西側の向斜部で地震基盤が標高−3800m程度と周辺よりも深くなっている。石狩湾から石狩市にかけても深いところが見られる(標高−4000m程度)。

周辺よりも基盤が浅くなっているところは,平成14年度反射法地震探査で捉えることができた月寒背斜付近や,札幌市と石狩市の境界付近に見られる。

調査地域西側の山地と平野部の境界付近での地震基盤深度は標高−2000〜−2400m程度と推定される。

重力基盤深度をコントロールデータで補正した後の地震基盤面等深度線図(図8−2−4)は,調査範囲内では図8−2−3とほとんど同じだが,調査範囲の北東外側(当別町)や南西外側の山地部ではコンターが追加された。調査範囲の南東外側のコンターは少し変更された。

イ 物性値モデル

微動観測点全35点の解析結果を用いて作成した第1速度層〜第6速度層下面等深度線図を図8−2−6−1図8−2−6−2図8−2−6−3図8−2−6−4図8−2−6−5図8−2−6−6に示す。等深度線図の作成に当たっては,曲率最小化原理に基づいた内挿を行った。第6速度層下面(第7層上面)を地震基盤面と想定している。物性値モデルは微動アレー探査結果に基づいて作成しているため,等深度線図のコンターは微動観測点が配置されている調査地域内にほぼ限られる。

第1速度層下面を除いて,各速度層下面とも地質モデルと同じように,既存重力図で低重力異常が現れている豊平川右岸側において最も深くなっており,第2速度層下面で標高−700m程度,第3速度層下面で標高−1100m程度,第4速度層下面で標高−2400m程度,第5速度層下面で標高−3900m程度,第6速度層下面で標高−5400m程度を示す。

以上のように物性値モデルとしては,同一S波速度層に基づく区分により,地表から地震基盤面までを6層に区分したモデルを作成した。各層のS波速度は,微動観測点全35点の平均値(前掲表8−1−1)をとった。

ただし,第1層のS波速度の平均値380m/sに対し,札幌地域におけるPS検層結果(表2−3−1表2−3−3)では,ほんどの場合,地表付近で100m/s台,200m/s台のS波速度を示している。これは微動アレー探査が主に深部を対象にした測定仕様をとっているため,浅部における詳細なS波速度分布を把握しきれないことによる。地震被害想定のための地盤モデルとして物性値モデルを利用する場合,浅部(深度,数10m程度以浅)については別途,既存土質ボーリングデータや既存PS検層結果を収集し,収集データからS波速度の推定を行う必要がある。

P波速度は,平成13年度〜平成15年度調査結果及び既存調査結果から導いたS波速度とP波速度の一次関係式(式8.1)を利用して算出することができる。