6−6 先験情報を用いた全観測点同時構造解析

ア 平成13年度,平成14年度調査における微動探査モデリング

<平成13年度>

平成13年度は本調査開始の年度であり,本調査地域の地下深部に関する情報は,周辺部において石油関連の調査資料があるものの,民間石油会社によるものは非公開であり,本調査地域内における情報はほとんどない状況であった。そこで,モデル解析は具体的な初期モデルを設定する必要がない遺伝的アルゴリズム(以降fGAと呼ぶ) を用いて実施した。その際,先に述べたように有用な事前情報がほとんどないために,パラメータ(S波速度,層厚)の採りうる範囲(探索範囲)を広く設定した解析を行った。また,解析層数は石油公団基礎試錐「石狩湾」における検層資料(石油公団1995)を参考に6層に設定した。

各解析において10回の試行(実験回数)を実施したため,1解析点当り10通りのモデルが算出された。最終モデルは,これらのモデルのうち目視で判断して観測位相速度と明らかにフィッティングしていないモデルを除き(10通りのモデル全てで観測位相速度とのフィッティングが悪い観測点は無かった),残ったモデルの中から,

@ブーゲー重力異常の分布と定性的に整合がよい

A隣接する観測点で構造が急激に変化しないものを選択した。

どの観測点においても,最終的に選択したモデルは,観測位相速度をほぼ説明できるものであった。ただし,観測点間で対応する層(第i層,i=1〜6)におけるS波速度の整合性が悪く,各観測点を関連させて層構造の空間的な分布を求めることが困難であった。この点は平成14年度の検討課題となった。

<平成14年度>

平成13年度調査と同様にfGAを用いて解析を実施した。その際に平成13年度調査結果および検討課題を参考にして,探索範囲(特にS波速度)を平成13年度調査より狭く設定し,観測点間で対応する層(第i層,i=1〜6)が,ほぼ同じS波速度となるように解析した。

S波速度の探索範囲を狭くしたことによって,観測位相速度とのフィッティングが悪くなることはなかった。すなわち,平成13年度解析モデルと同程度に観測位相速度を説明することができた。さらに,各観測点間における対応層(第i層,i=1〜6)のS波速度に対する整合性が改善されて,これらを一定の範囲のS波速度をもった層として空間的に対応させることができるようになった。その一方,対応層の層厚変化が隣接する観測点で大きく変化してしまう個所も生じた。

平成14年度に実施された反射法地震探査結果との整合性に関しては,一部の観測点で基盤深度分布に差異が見られたが,基盤上部層のS波速度を修正することにより,ある程度改善されることがわかった。

構造全体の傾向に対する整合性に関しても,反射法地震探査から得られた地層構造と微動の速度構造との間には差異が見られた。地層境界面が苗穂付近から東(北)へ向かって約2km程度深くなっている構造が得られた一方,測線近傍の微動観測点の速度層(第i層,i=1〜6)境界面は,地層境界面が深くなるに伴って深くなっていくものの,地層構造ほど急激には変化しなかった。また,反射法地震探査の速度解析から求められたP波速度分布と地層構造との間にも,微動S波速度と同じような傾向が見られる。