3−5 解析結果

ア 反射断面図の地質解釈

図3−5−1に解釈断面図を示す。全体的に東傾斜の反射面が多数認められ,それらの傾斜は東へいくほど大きくなる傾向がある。

反射面の連続性,反射強度,反射パターン,速度解析から得られたP波速度(断面図に記入),測線近傍の既存ボーリングデータなどに基づいて,主要な地層境界面に対比されると考えられる反射面を抽出した。

以下に,解釈した地層の分布状況及び地質構造について述べる。

(ア) 第四系(中期更新世〜完新世堆積物)

地表から浅部にかけて,砂泥互層からなる堆積層に特徴的にみられるほぼ水平な縞状の反射パターンが明瞭に認められる。第四系基底(ほぼ第四系の最下部層とみなせる材木沢層の基底)は,このほぼ水平に分布する反射波群とその下方に東傾斜で分布する反射波群の境界(不整合面,図中の緑色線)として捉えることができる。この境界深度は,岡(2003)の既存ボーリング柱状図(ACB屯田,丘珠SK−1,上山試錐倉庫)ともほぼ一致する。

第四系は,CDP300付近から西側では厚さ400〜600mで分布するが,CDP300付近から東側では急に厚さを

(イ) 当別層(西野層)

既存ボーリング柱状図(ACB屯田,丘珠SK−1)との対比から,測線西端で深度800m付近に分布する明瞭な反射面を当別層(西野層)基底(図中の茶色線)と解釈した。当別層(西野層)基底は東へ向かうにつれて徐々に深くなり,測線東端付近では深部での反射面はさほど明瞭ではないものの,基底深度が3600m程度,層厚が2600m程度と推定される。第四系と同じように,全体に砂泥互層からなる堆積層に特徴的にみられる縞状の反射パターンが明瞭に認められる。

当別層(西野層)内に引いた黄色の線や桃色の線は,既存ボーリング柱状図(丘珠SK−1,上山試錐倉庫)を参照すると,泥岩中に挟在する凝灰岩や凝灰角礫岩,砂岩・泥岩互層中に挟在する軽石質凝灰岩(茨戸タフ)などに対比される可能性がある。

(ウ) 望来層

望来層の厚さは,基礎試錐「石狩湾」,茨戸SK−1などの既存ボーリング資料を参照すると,400〜800m程度である。この情報に基づき,測線中央部から西側において,当別層基底(=望来層上面)とした反射面から下方400〜500m程度のところに分布する明瞭な反射面を望来層基底(図中の青色線)と解釈した。望来層も東へ向かうにつれてその傾斜が徐々に大きくなり,測線東端付近ではさほど明瞭ではないが,基底深度が4400m程度と推定される。層厚変化はさほど大きくはなく,厚さ300〜600m程度で分布する。

(エ) 盤の沢層・厚田層・奔須部都層

望来層の基底と地震基盤(定山渓層群)の間を,この地域の地質層序(表2−1−1)にしたがって,盤の沢層,厚田層及び奔須部都層と解釈した。測線西側では,当別層や望来層と同じように堆積層特有の縞状の反射パターンがみられるが,東側ではさほど明瞭ではない。

(オ) 地震基盤(定山渓層群)

望来層基底から深部の領域では反射面はさほど明瞭ではなく,反射断面のみから基盤を確定することはむずかしい。図3−5−2に示す石油公団(1995)のグリーンタフ(定山渓層群)上限地下構造図(時間)は,既存ボーリングの基礎試錐「石狩湾」(掘削深度3800m)の位置する海域から反射測線西端近くまでの陸域をカバーしている。基礎試錐「石狩湾」及びこの範囲の陸域に位置する既存ボーリング,西札幌SK−1D(掘削深度3305m),西茨戸SK−1(掘削深度3503m)は,いずれもこれまでの調査で地震基盤と想定した定山渓層群にまで到達している(到達深度は,基礎試錐「石狩湾」:3224m,西札幌SK−1D:2518m,西茨戸SK−1:2937m)。また,基礎試錐「石狩湾」と西茨戸SK−1を結ぶ地質断面(図3−5−2)も示されている。

これらの既存ボーリングや地質断面図の位置における時間(反射往復時間)と地震基盤(定山渓層群)深度の関係から,測線西端付近での基盤深度を推定すると2800m程度と見積もられる。

この情報に基づき,望来層の上下面に対比させた反射面の分布形状も参考にしながら,地震基盤面(図中の赤色線)に対比される反射面を抽出した。その結果,他の地層境界面と同じく,地震基盤面は東に向かうほど徐々に深くなり,測線東端付近ではさほど明瞭ではないが,深度5600m程度と推定された。

(カ) 断層

測線西端近くの望来層の上面と下面に変位が認められる。望来層上面ではCDP850付近に,望来層下面ではCDP790付近に東側上がりの変位が認められ,逆断層と解釈した。変位量は50〜100m程度と見積もられる。反射断面で見る限り,第四系の基底にまでは及んでいない。

上記(オ)で引用した地質断面(図3−5−2)では,既存ボーリング茨戸SK−1の位置する背斜西翼部に東側上がりまたは南側上がりの逆断層が示されている。同図によると,反射測線で逆断層が検出された位置はこの逆断層のほぼ南方にあたり,茨戸SK−1の逆断層の南方延長部を捉えた可能性がある。

(キ) 平成14年度調査で検出した月寒背斜との関連について

平成14年度反射断面では,月寒背斜(図3−5−3,平成14年度測線のCDP500〜550付近)の東側で低重力域に対応する大きな沈み込みが各地層にみられたが,本年度調査でも測線東端での急激な地層の沈み込みが捉えられた。

地層の沈み込みの形状は,ほぼ第四系の最下部層とみなすことができる材木沢層内の反射面にも認められることから,この褶曲活動は,当別層の堆積後半から活発化し,現在まで続いていることが明らかである。

平成14年度調査で検出された月寒背斜の北方延長部は,平成15年度測線ではCDP400付近に当たるが,反射断面には顕著な反射面の盛り上がり構造は現れていない。

イ 速度分布について

解釈断面図の各層には,速度解析から得られたP波区間速度の内,反射面の分布状況から信頼できると判断した深度区間のP波速度を記入した。全体的に横方向への変化は少なく,深さ方向への変化が大きい。同一層の中でも,深いところほど速度が大きくなっている。例えば,当別層についてみると,深度400〜1000m付近では2100〜2700m/s程度のP波速度なのに対し,深度1000〜2000m付近では2500〜3500m/s程度,さらに測線東端付近の2000m以深では3000〜3600m/sの速度となっている。測線東側の深部(約3000m以深)については,明瞭な反射面がなく信頼できる速度が得られていない。

各層のP波速度を,札幌地域で実施されたPS検層結果や基礎試錐「石狩湾」の音波検層結果と併せて表3−5−1に示す。速度解析から得られた当別層・西野層のP波速度上限値は既存調査のそれよりも大きいが,既存調査の分布深度と同じような深度では,比較的近い速度範囲になることから,この速度範囲の違いは分布深度の違いによるものと考えられる。

望来層のP波速度は,既存調査の同じような深度で比較しても,既存調査より大きな値を示している。また,盤の沢層・厚田層・奔須部都層については,既存調査より深いにもかかわらず,P波速度の上限値は既存調査よりも小さい。

望来層と盤の沢層・厚田層・奔須部都層の既存調査P波速度は,基礎試錐「石狩湾」の音波検層から得られた値であるが,上記の速度の違いは,望来層については岩質が異なっていることが原因の一つとして考えられる。

盤の沢層・厚田層・奔須部都層の既存調査のP波速度上限値5000m/sは,奔須部都層下部(礫岩主体)で得られている値である。このデータを除くと上限値は4500m/s程度となる。図3−5−2の地質断面図によると,この奔須部都層下部(礫岩主体)は基礎試錐「石狩湾」から測線北方の既存ボーリング西茨戸SK−1に近づくにしたがって薄くなり,西茨戸SK−1では分布していない。測線付近では奔須部都層下部(礫岩主体)が分布していない可能性が高く,これにより既存調査よりも速度が小さくなっている可能性がある。