6−3−2 解析の概要

一般に,沖積平野で観測される地震動には,地震基盤から入射した波が地層間で多重反射して増幅したS波の成分や,沖積平野と周囲の山岳地の境界付近で変換した表面波(いわゆる盆地表面波)など多くの波動成分が含まれる。地下の弾性波速度構造が分かっていれば,解析によって地震動に含まれるこれら全ての波の成分を原理的には計算することができる。また,こうして計算された地震動と実際に観測された地震動とを波形やスペクトルを比較することによって,計算に使った弾性波速度構造モデルの妥当性を検証することが可能である。

基盤構造が盆状構造のような2次元・3次元的な構造を示す場合には,地震動を評価する際にも,3次元解析によって地震動に含まれる種々の波動成分を考慮することが望ましい。しかし,平成13年度の段階では使用できる地震記録が限られていたことや,最終的な3次元モデルが完成していない等の理由から,今回は地震動解析を1次元に限定することとした。

一般に1次元地震動解析では,観測された地震動のうち,地震基盤から垂直入射して水平構造中を多重反射して地表に到達したSH波に着目した解析が行われている。図6−9は,1次元地震動解析で着目されるSH波の伝搬のしかたを模式的に示したものである。

1次元地震動解析では,まず地震基盤から入射するS波の波形が入力として与えられる。この入力波としては,地震基盤で得られた記録を使用することが最も望ましいが,札幌市域での大深度ボーリング孔における地震観測は実施されていないため,代わりに露岩部の観測点であるF−Net/HSS観測点でのデータを使用した。ただし,波形記録の振幅を1/2とすることによって自由表面の効果については考慮した。

次に,微動アレー探査によって得られたS波速度構造モデルを与えて,HSSの記録波形が地震基盤に入力されたときの地表における地震動を計算した。この計算には,水平多層構造および地震基盤における平面S波の鉛直入射を仮定した1次元多重反射理論(大崎,1994;Aki and Richards,1980)を用いた。このように計算された合成波(波形およびスペクトル)を実際に地表で観測された地震動(K−Net/HKD180観測点)と比較して,計算に使ったS波速度構造モデルの妥当性について検討を行った。

図6−9 1次元地震動解析に用いたSH波伝播の概念図