3−5−6 解析手法(SPAC法,f−k法)の違いによる解析結果の検討

本解析に先立ち,解析手法がSPAC法,f−k法と異なる場合,それぞれどのような解析結果を与えるかの検討を行った。そのためのデータとして,観測点No.9のものを用いた。F−k法による解析結果を図3−15上図に示す。ここでは,解析過程で得られるf−kスペクトルに複数のピークが表れた場合,最大値となるピークのみを取り上げ,位相速度を求めた。なお,低周波数領域に,しばしば現れるf−kスペクトルの縮退現象(松島,ほか,1989)は,ここでは見られなかった。したがって0.5Hz以下の位相速度も最適解と考える。一方,高周波数側で得られる位相速度について,同じ周波数でアレーによって位相速度が大きく異なる,あるいは同じアレーで,隣り合った周波数で位相速度が大きく変わるなどの結果が得られた。本解析では,これらの位相速度をそれぞれ平均し,周波数に対してスムージングを施した。その結果をSPAC法による解析結果とともに図3−15下図に示す。赤がSPAC法による位相速度,黒がf−k法による位相速度である。図で明らかなように,周波数0.4Hz,0.75Hz付近ならびに,1.3Hz以上で両方法による位相速度が異なっている。このような差異が生じた原因を明確に把握することは難しい。また,どちらの方法による結果の信頼度が高いかを評価することも難しい。微動をランダムな変動現象すなわち確率過程と見なしていることが根底にあるのかもしれないが,少なくとも,ここで明確に言えることは,SPAC法は特定困難な微動の,いろいろな方位による影響を空間自己相関関数について方位平均をとることにより,滑らかにしている。事実,SPAC法による位相速度には大きなバラつきはない。すなわち,SPAC法は,微動の到来方向は特定できないが,結果として,到来方向の差異による影響は受けないアルゴリズムとなっている。一方,f−k法には,上記のような方位平均,すなわちf−kパワースペクトルの方位平均操作がない。したがって,この方法のアルゴリズムの宿命として,微動の到来方向の影響が解析結果,すなわち位相速度に現れることになる。F−k法を適用する場合には,このことを考慮してf−kスペクトル上複数のピークの採用に恣意的な操作を施すなどの工夫が必要となる。しかし,f−k法はSPAC法より多くの計算時間を要する。また,この種の恣意的操作を要するとすると,本調査ではSPAC法の採用が妥当と考える。