(4)静補正

静補正は、標高差や速度的あるいは空間的に変化の大きい表層の影響を取り除く処理で、地表の発振点や受振点を、風化層等の低速度部が偏在しない基準面(一般的には平面)に見かけ上並べる、タイムシフトや標高シフトの処理である。これにより、共通発振点ギャザー(発振点を共通とするトレースの集まり、現場での収録データ)やCMPアンサンブル内での反射波の連続性を向上させ、以下に示す波形処理の効果を向上させることが可能となる。静補正として、表層付近に偏在する風化層の層厚や速度の変化の影響を補正する表層静補正、発振点や受振点の標高が異なる影響を補正する標高静補正を行った。静補正の概念を図4−16に示す。なお、一般的に用いられる静補正は上記のように、風化層等の影響がない風化層の下部に基準面を設け、この面に発振点や受振点を移動させるが、本調査では、表層近傍の浅部構造もイメージ対象とするため、速度的及び空間的に変化に富む風化層等の低速度部を基準面の速度に置き換える表層静補正を行った。

図4−16 静補正の概念

静補正は、a)反射法地震探査で収録したデータの初動走時の読み取り、b)これを入力データとする屈折法地震探査の解析のステップにより表層に分布する風化層と下位層の速度及び風化層の層厚を求め、表層静補正量や標高静補正量を算出した。

なお、屈折法地震探査においては、探査深度の数倍以上のオフセット(発振点と受振点の間の距離)が一般には必要とされている。これに対して、今回の反射法地震探査の最大オフセットは2,000m程度であり、探査深度的には数百m程度である。このため、今回の反射法地震探査のデータから深度1km程度に分布する地震基盤の速度などの性状を推定することは不可能であった。

静補正量の算出のために実施した屈折法地震探査の解析方法について以下に示す。

・ 静補正量算出のための屈折法地震探査の解析

屈折法地震探査の解析では、地下の構造を速度層に区分し、表層から1層毎にはぎ取る「萩原の方法」等が多用される。しかし、地表付近の風化層等でよく認められる、深度と共に漸次的に速度が増す構造では、必ずしも精度の高い静補正量が得られるとは限らない。そこで、表層を小さなセルに分割し、個々のセルの速度を求める「屈折波を用いたトモグラフィ」により表層の速度分布を求め、これにより静補正量を算出し、表層に起因する乱れを補正する。屈折波を用いたトモグラフィでは、表層を萩原の方法で用いる層よりも小さなセルで表し、セル毎の速度を求めるため、深度と共に漸次的に速度が増す構造や局所的な速度変化をより高分解能で表現することが可能となる。屈折波を用いたトモグラフィの原理を図4−17に、解析手順を以下に示すと共に、図4−18に解析フローを示す。

1. 観測波形よりP波初動走時(縦波の到達時間)を読み取る。

2. 均一な速度や深度と共に速度が漸次的に増加するなどの任意の初期表層速度モデルを作成する。

3. 表層速度モデルと差分法(Vidale法)を用いて初動走時を計算する。初動走時計算法には種々のものが存在するが、ここでは、速度分布をセルで表現すること、屈折法地震探査に比べ反射法地震探査では一般的にデータ数が大きいこと、計算速度が大きいことを考慮し、差分法を用いた。

4. 計算初動走時を観測初動走時、あるいは前回の計算初動走時と比較し、収束判定を行う。収束と判定した場合には現在の速度モデルを最終解析結果とし、解析を終える。

5. 計算初動走時を基に初動の波線(発振点と受振点を結ぶ波動の伝播経路のうち、初動を示すもの)を求める。

6. 計算初動走時と観測初動走時の差、及び波線を基に表層速度モデルの修正を行う。表層速度モデルの修正は計算初動走時と観測初動走時の比により波線近傍の速度を修正する方法を用いる。

7. ステップ:3へ戻る。

図4−17 屈折波を用いたトモグラフィにおける速度分布推定の原理

図4−18 屈折波を用いたトモグラフィ解析フロー