事前情報は、解析実施前にモデルパラメータに対して制約(思い込み)を与えるものと解釈される。これは解析の際に解析者の主観が入り込むという欠点がある(杉本,1988)。
一方、本解析では、当地域において他の調査で得られた結果を事前情報として積極的に利用することを意図している。このような場合には、考えうる複数の事前情報モデルから、ある客観的な基準に基づいて最適モデルを決定することが合理的である。ここでは(3)式に示した尤度を用いることとする。
いま、複数の事前情報モデルの内、i番目のモデルを用いて解析した場合におけるデータyの尤度Li(y)は、
Li(y) =pi(y|x) = p (y|xi) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (18)
となる。ここで、pi(y|x)は、i番目のモデルを用いて解析した場合におけるデータyの事後確率分布、xiはi番目のモデルを用いて解析した場合(11)式におけるyの事後確率分布を最大にするモデルパラメータである。この尤度が大きい(または尤度の対数logLi(y)が大きい)モデルほど良いモデルと評価することとする。これは、複数の事前情報モデルのうち観測データを説明できる(観測データとの残差が小さい)モデルを良いモデルとして選択していることに相当する。
モデルの選択基準には、この尤度最大化のほかにも数々の方法が知られている。例えば赤池情報量基準(AIC)、赤池ベイズ型情報量基準(ABIC)などである。AICはモデルの評価基準として、その「予測能力」を考える(伊庭,1998)。定式化して示すと、
AIC = −2( logLi(y) ) + 2m ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (19)
となり値が小さいほど良いモデルと評価する。ここでmは、モデルの自由度である(杉本,1988)。ABICでは、データyの周辺確率分布を考える。今、複数の事前情報モデルの内、i番目のモデルを用いて解析した場合におけるデータyの周辺確率分布は、
pi(y) = Σxpi(y|x)pi(x) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (20)
である。(3)式で定義した尤度を用いると、i番目のモデルを用いて解析した場合におけるデータyの尤度(このことを周辺尤度と呼ぶ)は、
Li(y) =pi(y) = Σxpi(y|x)pi(x) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (21)
と表現でき、この対数logLi(y)が大きいモデルを良いモデルとして評価する(伊庭,1995)。定式化に際してはAICに類似した係数を用いて、
ABIC = −2( logLi(y) ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (22)
と表現される(杉本,1988)。この表現の場合は、値が小さいほど良いモデルと評価する。
弾性波トモグラフィーの解析ではABICで良好な結果が得られる場合が報告されている(杉本,1988)。現在のところ微動アレー探査におけるデータ解析の場合、どの基準が優れているかは解析実施例がほとんどないために明確ではない。また対象とする解析地域の条件によって変化することも想定される。そこで、本解析では最初に定式化が簡便で観測データとの残差が一番小さくなることが期待される尤度最大化基準を試み、その結果モデル解が発散してしまうなどの不具合が発生すれば他の基準を試みることとした。解析を実施したところ、尤度最大化を用いることにより、結果に不具合が発生するようなことが起きなかったために、結果として、尤度最大化を用いたこととなった。