(2)地震動の特徴

伊勢平野は、その西縁は鈴鹿東縁断層帯で基盤と堆積層の境界面が切り立っており、数百mを超える基盤落差が存在する。下盤側の基盤は、緩やかに西に傾動しており、伊勢湾沖周辺で最下部となった後、知多半島へ向かって浅くなるものと見られる。2000/10/31の地震では、山地と平野の境界より平野内に入ったところ(特に、津市から松阪市にかけて、香良洲町を中心とする地域)で地震動の振幅が増大しているのが確認できる。この成因は、地震(震源の放射条件、到来方向)にもよるが、盆地南端部で生成した表面波(盆地生成表面波)に関連して地震動が増大したものと推定され、いわゆる盆地端部効果が認められる。なお、河芸町の平野内に断層、撓曲が確認されたが、長周期帯域の地震動に影響を与えるほど規模は大きくないとみられ、局所的に地震動が集中している地域は見られない。鈴鹿東縁断層帯によって盆地周辺山塊と切られる伊勢平野の強震動予測では、特に盆地端部効果(周期2秒程度以下の地震動)は注意して評価すべき現象であると考えられる。

スペクトルの形状に関して、1秒より低周波成分について、多くの観測点で実記録と合成記録でフィティングが良好であったが、MIE009(松阪)については、周期2秒以下の高周波成分が幾分過大評価されている。この傾向は、一次元解析(1次卓越周期が2秒弱から0.5秒弱に変化)でも見られていて、これを補正するために、松阪観測点の基盤深度を70mまで浅くした。今岡(2001)などによれば、MIE009(松阪)に近い松阪市役所でのH/Vスペクトル比の卓越周期は0.3〜0.4秒程度とされており、今回の解析結果と整合している。現状の、松阪市周辺における地下構造モデルを、図3−4−34に示す。図中には、各点近傍で得られている常時微動解析結果によるH/Vスペクトル比の卓越周期を併せて示した。微動アレイ観測点(No.15)の深度約400mから、松阪観測点(深度70m)にかけて基盤を急激に浅くする構造になっており、局所的な重力異常、単点微動解析結果、地表地質などと整合的である。ただし、伊勢平野南部周辺には、反射法データなどの物理探査データが十分にないため、三次元的な深部基盤構造には不明な点が多く、この地域における地下構造モデルの再検討の余地が残されている。