3−4−3 三次元解析による検証

推定された三次元地下構造モデルが、地震動の計算モデルとして有効であり、計算結果と観測された地震記録が調和的であるかどうかを確認しておく必要がある。そこで、対象地域で発生した中規模の地震(マグニチュード5クラス)を用いて三次元地震動シミュレーションを行い、地下構造モデルの検証を行う。

今回、調査地域の北方に位置する美濃中西部で1998年4月22日に発生した地震、および、三重県南部で2000年10月31日に発生した地震に対して地震動シミュレーションを実施して、強震観測記録と比較することにより速度モデルの妥当性について検討する。

 今回の目的は、強震観測データを使って推定された深部地盤の地下構造モデルを検証することにある。このため、使用する地震は、低周波成分を含む記録が得られており、かつ、震源が単純に点震源近似できるサイズ(マグニチュード5程度)が望まれる。さらに、伝播過程の影響を受けない伊勢平野周辺で発生し、かつ、震源の深さが比較的浅く、盆地表面波が強く生成されているものが望ましい。これらを考慮して、2004年までに強震観測網で得られた地震記録の中から上記2つの地震を選択した(表3−4−1)。

先の「三次元モデルの作成」においては、より真実に近い5層地下構造モデルを作成したが、三次元シミュレーションに使用するモデルは、表層(200m/s層)を減らして4層モデルとし、かつ、各層の物性値は一定としてモデルを単純化した。つまり、三次元シミュレーションでは、不均質性の大きい極浅部構造の取り扱いは、三次元モデルの作成上、および、計算機(メモリー)の能力上困難である点から、解析される周期範囲をやや長周期帯域に絞り込むこととする。

今回、波形計算の有効周期(下限)は2秒とした。この理由は、前章までに、当該地域の表層地盤が地震動に影響を及ぼすのは周期1.5秒程度未満であると推定され、表層地盤の三次元的不均質性の把握については十分でないことから、現状では周期2秒程度以下の周期の波形を再現するのは困難であると考えられたからである。図3−4−4に、伊勢平野地域のシミュレーションに用いた地震と、三次元シミュレーションの計算範囲を示す。計算範囲は、東西60km、南北120kmの矩形で設定した。図3−4−5に、三次元シミュレーションで使用するモデルを鳥瞰図で示す。表3−4−5には、F−Netのメカニズム決定に用いられている一次元モデル(福山、ほか、1998)を示す。表3−4−6には、今回の三次元シミュレーションに用いた速度構造モデル(伊勢平野)を示す。三次元シミュレーションに用いた地震の気象庁による震源情報および防災科学技術研究所によるメカニズム解を、それぞれ、表3−4−7表3−4−8に示す。

 表3−4−9には三次元シミュレーションに使用した数値計算スキームを示す。三次元波動場計算では、構造モデルは三次元モデル、震源は点震源とする三次元波動場を計算する。数値分散を抑えながら効率良く計算を行うために、グリッド間隔を深度方向に変化させることのできるスキーム(variable grid spacing 型)を採用した(Pitarka, 1999)。防災科学技術研究所の広帯域地震観測網による手動メカニズム決定で得られた地震モーメント推定値を基に点震源における振幅を与え、震源メカニズムは、方位角(strike)、傾斜角(dip)、すべり角(rake)で与えた。震源時間関数(モーメント速度関数)は、三角型で与えた。この時間幅は、試行錯誤的に与えた。水平方向のグリッド間隔は200m、深度方向のグリッド間隔は50〜500mに設定した。数値分散(グリッド分散)による数値誤差を考慮すると、数値計算結果が10%以下の誤差範囲に収まり信頼できる周期範囲は、概ね2秒(表面波は2秒、S波実体波は1秒程度)である。もちろん、粗い精度(振幅を2倍、半分以内の整合)で波形合わせを議論する場合は、1秒程度までの周期の計算結果が有効であると考えられる。

 内部減衰については、Graves(1996)に従って、Q値(周波数の1乗に比例)を計算している。ここでは、中心周期とみなされる周期2秒におけるQ値を与えている。Q値については、シミュレーションの試行錯誤の後、いずれのモデルについても、中新統までの堆積層は一様に50、中新統は100、基盤は200と与えた。また、密度、P波速度については、既存資料に基づいて表3−4−4のように設定した。地表境界には応力がゼロになるように自由境界を与えて,残る3つの境界にはCerjan, et al.(1985)などに基づく吸収境界を与えた。標高変化については、計算に考慮されていない。