(4)速度モデル(S波速度)の修正

堆積層および基盤のS波速度は、既存資料に基づき、表3−4−4のように与えた。H/Vスペクトル比の第1ノッチ周波数による比較では、多くの観測点で実記録によるH/Vスペクトル比の卓越周波数と対応しており、モデルの妥当性が確認できた。ただし、初期モデルのピーク周波数が、MIEP07(鈴鹿)、MIEP25(川越)、MIE003(四日市)など平野中央部の観測地点では、観測結果に比べて若干小さな値を示した。この地域は、近くに反射法探査測線が位置しており、比較的基盤深度に対する信頼性は高いと考えられる。従って、これらの地域の堆積層平均S波速度を速くすることによって地下構造モデルの改善が期待された。

今回、当地域の堆積層の大部分を構成しているのが東海層群(初期モデルでは、0.85km/s)であることから、これを代表するS波速度をチューニング(10%程度)することで、地下構造モデルの改善を試みた。なお、到来方向の異なる地震により若干ピーク周波数がずれている観測点(MIE002(菰野)、MIE001(藤原))も含まれたが、地震による系統的なずれはなく本手法の解析誤差(地下構造を一次元モデルと仮定することに基づく誤差)であると考える。例えば、鈴鹿山地の山麓に位置し、基盤が西方に急激に浅くなるMIE002(菰野)では、西方から入射した鳥取県西部地震のピークは、南方から入射する紀伊半島南東沖の地震のピークより高周波側であるが、これは基盤深度が空間的に変化していることが影響していると考えられる。

一方、S波多重反射理論に基づく線型地盤応答解析により、深層地盤の卓越周期を反映した理論ピークが、不明瞭であるが観測記録より求めた増幅スペクトルのピークと対応づけられる点が存在した。検証の対象とした7地点のうち、平野の中央部付近に分布するMIEP05(桑名)、MIEP07(鈴鹿)などは、初期モデル(東海層群S波速度850m/s)に対する基本周期(理論値)が観測記録による1次ピーク周期より若干大きくなっているように見え、堆積層(東海層群)の平均S波速度を過小評価している可能性があった。これらの観測点(周辺)は、先のH/V解析結果においても同じような傾向が現れたため、堆積層(東海層群)のS波速度を若干速くする修正により、H/V解析と並行して改善を図った。

最終的に、下記のように5観測点の東海層群におけるS波速度の修正を行った。なお、他の観測点(MIE006(津)、MIE009(松阪)、MIE010(伊勢)、MIE013(南島)、MIE017(宮川)、MIEP05(桑名)、MIEP18(員弁)、MIEP27(河芸)、MIEP31(香良洲)、MIEP36(三雲))については、最初の速度850m/sで第1ピーク周期が整合していたので、モデルの変更は行わなかった。ただし、MIE009(松阪)については、コントロールポイントがなく、スペクトルを合わせるために、試行錯誤的に基盤深度を70mに修正した。

観測点     東海層群のS波平均速度

MIE001 藤原 750m/s

MIE002 菰野  900m/s

MIE003 四日市 900m/s

MIEP07 鈴鹿 950m/s

MIEP25 川越 950m/s

この結果、H/Vスペクトル比解析、線型地盤応答解析ともに観測値と理論値のフィッティングが改善した。上記の修正は、東海層群の平均S波速度は、700〜950m/sとばらついていて、中央値850m/sから+−15%程度の空間変動がある。盆地中央部のMIE002(菰野)、MIE003(四日市)、MIEP07(鈴鹿)、MIEP25(川越)で若干速度が大きく、盆地周縁部のMIE001(藤原)において若干速度が小さくなっている。つまり、東海層群の上面深度が浅くなるほど、東海層群の平均S波速度が遅くなる傾向を示している。なお、得られた東海層群のS波速度について、P波・S波速度関係式(回帰式)のばらつきの範囲内であり、既存のデータと矛盾しない。

以上まとめると、地下構造モデルは、S波速度モデルの微調整(±15%程度)を行うことにより収集した地震データをより適切に合わせることができた。盆地端部では、東海層群の平均速度が全体よりも遅くなること、また、盆地中央部においては速くなることが確かめられた。作成されたS波速度モデルと隣接する微動アレイ観測点におけるS波速度モデルも、各層の速度対応が比較的良好であった。また、このチューニングによるS波速度の修正量は、既存のP波/S波速度関係式のばらつきの範囲内であり、既存の関係式と矛盾しなかった。

今回の三次元シミュレーションに用いた東海層群のS波速度(代表値で一律に表現)は、四日市コンビナートの石油タンクにおける長周期地震動の挙動が社会的に重要になることから、四日市周辺のS波速度である900m/sを設定した。この場合、MIE001(藤原)観測点では速度が15%程度過小評価になる。