4 今後の課題と調査方針

本調査では、伊勢平野の深部地下構造を把握するための調査の第一段階として、既存の調査結果を整理検討するとともに、伊勢平野全域の概略の地下構造を把握することを目的に、15カ所で微動アレー探査を実施した。

その結果、伊勢平野の地下構造について、以下のようなことが明らかとなった。

@ 地震震基盤相当層(S波速度3.0km/s以上)の深度は、南北方向では四日市市周辺を含む北部で深く、南部で浅い傾向にあり、特に津市よりも南部で浅いことが推定された。地震基盤深度の精度の良い推定のためには、今後の精査が必要であるが、四日市周辺では2000mを越える可能性がある。

A 東西方向においては、北部では鈴鹿山脈近くまで地震基盤が深く、鈴鹿東縁断層帯を境に地震基盤深度が急変している可能性がある。

B S波速度で3.5〜3.8km/s程度を示す基盤岩の上位には、S波速度で1.4km/s相当層及び1.2km/s相当層、0.9km/s相当層、0.6km/s以下の層が厚く分布していることがわかった。

一方、以下のような事項が、今後の課題として残された。

@ 微動アレー探査だけでは、地下構造の推定の精度と信頼性に限界がある。地震基盤の速度と深度、その上位の堆積層の速度層構成等の詳細については、ボーリングや反射法地震探査等の精査の結果との比較検討が必要である。

A 微動アレー探査結果や既存重力データの解析の結果、津市以南で地震基盤が急激に浅くなっていることが推定されたが、地震基盤の正確な深度やその上位の堆積層の物性等については、@と同様にボーリングや反射法地震探査結果等との比較検討が必要である。

B S波速度が1.4km/s相当層〜0.9km前後の速度層は、中新統や東海層群に相当する地層と推定されるが、濃尾平野等の調査結果では、第三紀の堆積層の場合、深度や層厚によって速度が変化することが確認されている。今回の微動アレー探査の解析では、そのような解析の参考にできる検層データや反射法地震探査データ等がないために、そこまでの検討ができていない。

C 地震波の波長に比べ、層厚が薄い多層からなる堆積層の場合には、速度の異方性についても検討する必要があるが、上記と同じ理由で検討するに至っていない。

D 今回の調査において、伊勢平野の大局的な地下構造が把握できたが、伊勢平野のように断層で囲まれた平野の場合、山地境界部で構造が急変している可能性があるが、その詳細な把握までには至っていない。

厚い堆積層の平野部と基盤岩の露出する山地部との境界部で想定される地下構造の急変部は、地震動を大きく増幅したり、兵庫県南部地震時の「震災の帯」のような強震動域を発生させたりする可能性がある。

今後の調査は、上記課題を踏まえ、以下の点に留意して実施されるべきと考える。

@地震基盤とその上位の堆積層の形状や物性を精度良く把握する

反射法地震探査とボーリング等を併用し、地震基盤深度とその上位の堆積層の分布形状や物性を精度よく把握することが必要である。特に、四日市市周辺では地震基盤深度が2,000mを超える可能性があるので、そのような深部までを対象とした計画が必要である。また、津市以南で急激に地震基盤が浅くなることが推定されるが、その基盤深度の変化についても精度のよい把握が必要である。

A山地部等の構造急変部の地下構造を精度良く把握する

反射法地震探査を実施する場合、測線を可能な限り山地部まで延長し、平野端部の形状を精度よく把握する必要がある。また、本調査で推定された概略の地下構造を参考に効果的な測線を設定する必要がある。

BS波速度の高精度化

反射法地震探査や検層データを較正値や先験情報として、本調査で得られた微動アレー探査データの再解析を行い、S波速度の検出精度を向上させる必要がある。

C地下構造モデルの検証

地震動を精度よく予測するために必要な地下構造モデルを得ることが最終目的であるので、強震計ネットワーク等で観測される表面波等の長周期の地震動を利用して、得られた地下構造モデルを検証することが必要である。