(4)速度固定解析結果

図3−2−23に、観測点No.1における逆解析結果(前項E(ロ))と、No.1付近で実施された反射法地震探査(文献No.1)の結果を比較して示す。反射法地震探査結果では、P波速度2.2〜2.4km/sが東海層群大泉累層(To層)、3.0km/sが東海層群多志田川累層(Tt層)、3.4km/sが中新統相当層(M層)、4.8〜5.0km/sが基盤岩層(B層)と解釈されている。P波速度の速度差について見るとTo層とTt層の境界、M層とB層の境界が大きく、微動アレー探査から推定される速度境界もそれらとよく対応している。これらから、地震動を検討する上では、中新統上面の境界を把握するよりも、東海層群中の区分がより重要と考えられる。しかしながら、地質学的にはM層とTt層の境界(中新統上面)も重要と考えられることから、M層とTt層の境界をもモデルに与えて再解析を行った。

具体的には、遺伝的アルゴリズム(GA)において層厚の探索範囲を極端に狭くし、速度層の境界面と地質境界面を一致させ、S波速度の探索範囲を大きくした。表3−2−10にGAによる解の探索範囲を示す。その他のパラメーター(試行回数、世帯数、世代数)は、前項(ロ)で示したものと同じである。また、本解析でもGAによって求めた残差が小さい10個のS波速度モデルについて、さらに最小二乗法によりモデル修正を行った。

図3−2−24に境界深度固定解析によって求められたS波速度構造と、その構造により計算した理論位相速度を示す。境界深度を固定した解析による、観測値と理論値の残差はやや大きくなっているが、観測位相速度をよく説明している。

表3−2−11に、このようにして求めた微動アレー探査によるS波速度と反射法地震探査の速度解析で求められたP波速度の比較を示す。微動アレー探査結果と同様に、東海層群と中新統との地層境界の速度コントラストよりも東海層群内での速度コントラストが大きい結果が得られた。したがって、微動アレー探査で得られるS波速度からは、東海層群と中新統との境界は困難と考えられる。また、表中の基盤岩(美濃帯)におけるP波速度とS波速度の比(Vp/Vs比)については、一般の基盤岩と比較してやや小さい。特にS波速度がやや早い感じを受けるが、今後行われる反射法探査などの結果を受けて検討する必要がある。

しかしながら、反射法探査によるP波速度と微動アレー探査によるS波速度との比(Vp/Vs比)は、濃尾平野における調査結果とほぼ対応しているため、観測点No.1において求められたS波速度を、伊勢平野を代表するS波速度と仮定して、その他の地点での逆解析を行った(以下では速度固定解析と称する)。速度固定解析の際には、S波速度の探索範囲を表3−2−11に示したS波速度周辺に絞って解析を行った(解析結果図3−2−25−1図3−2−25−2)。その結果、残差に大きな違いは見られなかったが、観測点No.3およびNo.8において基盤深度が2000mを越える結果となった。

図3−2−23 No.1における逆解析結果と反射法地震探査結果との比較

図3−2−24 境界深度固定解析結果(左図)と微動単独解析結果(右図)

表3−2−10 境界深度固定解析における解の探索範囲(観測点No.1)

表3−2−11 微動アレー探査(S波速度)と反射法地震探査(P波速度)結果との比較(観測点No.1)

図3−2−25−1 速度固定解析結果(No.1〜No.9) 

図3−2−25−2 速度固定解析結果(No.10〜No.15)