(2)花粉化石分析

花粉化石灰分析を行った試料は全部で5試料である。分析の結果,表2−7のように樹木花粉42型,非樹木花粉18型,シダ胞子5型と総計65型が同定された。5試料のいずれかの試料において1%以上の産出が見られた花粉胞子型を,主要花粉として図2−5にダイアグラムとして示す。

花粉の産出は,最下位の1試料(P−5)を除いて類似傾向を示す。最下位の試料は,ハンノキ属(Alnus)にスギ属(Cryptomeria),トウヒ属(Pivea),マツ属(Pinus)が伴い,コナラ属コナラ亜属(Quercus subgen. Lepidobalanus),アカガシ亜属(subgen. Cyclobalanopsis)も産出する。上位4試料は,コナラ属アカガシ亜属が最優占し,スギ属,コウヤマキ属(Sciadopitys),クリ属/シイノキ属/マテバシイ属(Castanea/Castanopsis/Lithocarpus)が伴う。上位4試料のうち下位2試料(P−3,4)では,トチノキ属(Aesculus),クロウメモドキ科(Rhamnaceae),カエデ属(Acer),サワグルミ属/クルミ属(Pterocarya/Juglans),トウヒ属が,上位2試料(P−1,2)では,ハンノキ属,マツ属,クリ属/シイノキ属/マテバシイ属が多い傾向がある。その他には,温暖な気候下に生息する樹種を含むアカメガシワ属(Mallotus),クロウメモドキ科(Rhamnaceae),センダン属(Melia),シラキ属(Sapium),ハイノキ属(Symplocos),サルスベリ属(Lagerstroemia),絶滅種であるフウ属(Liquidambar)が見られる。

図2−5 花粉組成ダイアグラム

スギ属花粉の産出は中期更新世以降であり,コナラ属アカガシ亜属の優占で特徴づけられる温暖期は,大阪湾のボーリング試料では大阪層群の海成粘土Ma6,Ma9,Ma12,Ma13である。その中でも,とくにMa9はアカガシ亜属の産出率が高く,クリ属/シイノキ属/マテバシイ属を伴うことより,本分析試料はMa9に対比される可能性が高い。その他,コウヤマキ属が伴い,ブナ属(Fagus)がそれほど目立たないこと,わずかなフウ属の産出,温暖な気候を示唆するアカガメワシ属,クロウメモドキ科,センダン属,シラキ属,ハイノキ属,サルスベリ属などの産出も,大阪湾周辺のMa9の特徴と一致する。

大阪湾周辺のボーリング試料のMa9では,最も暖かいと考えられる時期にクリ属/シイノキ属/マテバシイ属の産出がより顕著であるが,平成12年度実施のKD−2ボーリングや本孔の結果では,クリ属/シイノキ属/マテバシイ属の産出はそれほど顕著ではない。これは,堆積環境やMa9の中での時期的な違いというよりも,大阪湾周辺と京都盆地の地理的な差異を反映していると考えられる。また,大阪湾周辺のMa9の下部ではハンノキ属,ブナ属が多産するが,今回の最下位の試料ではハンノキ属は多いもののブナ属ではなくトウヒ属,マツ属,スギ属が多い。これも地理的な差異の可能性は考えられるが,京都盆地周辺でのMa9下部の花粉組成は不明なため,詳細は不明である。