(1)火山灰分析

詳細な火山灰分析を行った試料は全部で15試料,概略分析を行ったものは103試料である。これらの分析結果は以下のとおりである(表2−6−1表2−6−2図2−4−1図2−4−2)。

@詳細分析結果

T−1:深度49.86〜49.88m

ボーリングコアでゴマシオ状を呈し,火山ガラスを全く含まず,緑色普通角閃石を主体として斜方輝石を含む。微量ながらカミングトン閃石も含まれる。含まれる鉱物の組成と斜方輝石・角閃石の屈折率,および後述するが上位の深度24.8m付近に約9万年前に噴出した阿蘇4(Aso−4)・鬼界葛原(K−Tz)火山灰降灰層準が検出されたことより,この火山灰は約23万年前に降灰した大山最下部火山灰(hpm1あるいは2)であると推察される。ただし,この火山灰は鉱物組成や重鉱物の屈折率などより,約5万年前に降灰した大山倉吉軽石(DKP)の可能性も考えられる。しかし,DKPとhpm1or2の区別はむずかしい場合があり,仮にこれがDKPであるとすると,上位にAso−4・K−Tzが存在することになり矛盾が生じることになる。しかし,現状では火山灰の対比における決定要素が明確でないため,化学分析などによるより詳細な分析が望まれる。

T−2:深度139.60m

火山ガラスは珪長質な軽石型を主体とし,バブルウオール型のガラスを少量含む。緑色普通角閃石,黒雲母,斜方輝石を含む。屈折率もあわせて大山系火山灰の可能性が考えられるが,詳細は不明である。

T−3:深度164.88〜164.92m

火山ガラスが多く,黒雲母,緑色普通角閃石,斜方輝石を含む。ガラスの形態は,軽石型がバブルウオール型に比べて多い。ガラスの屈折率ともあわせて,約50万年前に宮崎県の小林カルデラから噴出した「サクラ火山灰」に対比できる。

T−4:深度172.75〜172.76m

火山ガラスは全く産出せず,黒雲母と緑色普通角閃石を含む。カミングトン閃石を少量含む。対比要素に欠くため,火山灰の対比はできない。

T−5:深度213.20m

火山ガラスは全く産出せず,重鉱物も微量にしか含まれない。

T−6:深度253.85m

火山ガラスは全く産出せず,重鉱物も少量である。火山灰ではないと判断される。

T−7:深度283.53m

火山ガラスは全く産出せず,重鉱物も少量である。火山灰ではないと判断される。

T−8:深度297.00m

火山ガラスを主体とし,バブルウオール型が軽石型に比べて多い。微量ながら斜方輝石,単斜輝石,緑色普通角閃石を含む。ガラスの屈折率もあわせて,この火山灰は約87万年前に九州中部の九重連山付近にあった猪牟田カルデラから噴出した「アズキ火山灰」に対比される。

T−9:深度297.83〜297.84m

軽石型の火山ガラスを主とし,色つきのガラスを含む。斜方輝石と単斜輝石を微量に含む。アズキ火山灰と対比された火山灰の基底から下位10cmの所に挟まれる火山灰であり,アズキ火山灰最下部プリニアン軽石層に対比される。

T−10:深度343.59〜343.60m

火山ガラスは産出せず,緑色普通角閃石と斜方輝石を含む。火山灰の対比は不明だが,光明池TあるいはイエローUの可能性が考えられる。

T−11:深度470.67m

火山ガラスは産出せず,緑色普通角閃石とカミングトン閃石を含む結晶質火山灰である。

T−12:深度537.50m

火山ガラスは産出せず,単なる花崗岩質な砂である。

T−13:深度668.00m

極微細な火山ガラスからなる。わずかながら,珪長質で肉厚な板状軽石型火山ガラスと識別できるガラスを含む。下位(T−14)にある火山灰の再堆積火山灰と判断される。

T−14:深度669.90m

珪長質な軽石型火山ガラスを主とし,微量ながら緑色普通角閃石と黒雲母を含む。ガラスの屈折率やユーライトという屈折率がとくに高い斜方輝石を含むことより,約175万年前に岐阜県北部と長野県の県境付近にあったカルデラから噴出した「福田火山灰」に対比できる。

T−15:深度673.90m

火山ガラスは微量ながら,軽石型を主とする。緑色角閃石と黒雲母を含む。対比要素に欠けるため,火山灰の同定はできない。

A簡易分析結果

T2−1:深度13.00〜13.10m

バブルウオール型の火山ガラスが多量に含まれる。ガラスの屈折率は1.510−1.515で,水和不良である。したがって,この層準は約7300年前の「鬼界アカホヤ火山灰降灰層準」と考えられる。

T2−2:深度13.90〜14.00m

これより上位には火山ガラスが散在して産出するが,これ以深ではガラスはほとんど見られない。ガラスの形態はバブルウオール型で,屈折率は1.496−1.500である。鬼界アカホヤ火山灰起源のものも含まれるが,その降灰層準に近接しているので,同深度は約2万3千年前に噴出した姶良丹沢火山灰降灰層準近辺と推測される。また,14m以深にこの火山灰が降灰し,不整合面である14m付近に再堆積した可能性も考えられる。

T2−3:深度24.75〜24.80m

この層準で突然に高温型石英が多く含まれるようになり,褐色を帯びた光沢のある緑色普通角閃石が産出する。これらの鉱物は上下層準にはほとんど含まれない。角閃石の屈折率は,約9万年前に降灰した阿蘇4火山灰と一致する。また,鬼界葛原火山灰と阿蘇4火山灰は,ほぼ同一層準に混在して産出することが多いことより,この層準は「阿蘇4・鬼界葛原火山灰降灰層準」に相当すると推測される。

T2−4:深度172.80〜173.00m

多量の自形を保つ緑色普通角閃石および高温型石英を含む。斜方輝石も上下層準と比べて明らかに多い。斜方輝石と角閃石の屈折率もあわせて考えると,この層準は南九州一帯に広く分布する約50〜60万年前に噴出した,「下門火山灰降灰層準」と推測できる。

T2−5:深度180.40〜180.60m

微量ながら,火山ガラスと斜方輝石が産出する。その量は,上下層準と比べると多い。ガラスの形態は無色と褐色の軽石型を主とし,屈折率は無色部分で1.495−1.498,褐色部分で1.503−1.508でマグマの混交が読みとれる。このような特徴は九州北部起源の火山灰に多く見られるが,火山灰の対比は現況では困難である。

T2−6:深度181.40〜181.60m

微量ながら,バブルウオール型の火山ガラスおよび斜方輝石を含む。その量は,上下層準と比べると明らかに多い。斜方輝石の屈折率は1.705−1.716と1.744−1.756の2つのピークがあり,また非常に高い値となっている。これほど高い屈折率を持つ火山灰は,大阪層群では福田火山灰しか知られてないが,この層準よりかなり下位に福田火山灰は出現する。ガラスの屈折率は誓願寺−栂火山灰と一致するが,正確な斜方輝石の屈折率が不明なため,火山灰の対比は困難である。

写真2−1 サクラ火山灰 [深度:162〜165m]

写真2−2 アズキ火山灰 [深度:296〜299m]

写真2−3 福田火山灰火山灰 [深度:667〜671m]