(1)解析方法

観測データから表面波(ここではレイリー波)の位相速度を推定するために空間自己相関法(SPAC法)および周波数−波数法(F−K法)を用いた。両手法共に微動信号を定常確率過程として取り扱っている。

@ スペクトルの推定

図7−11に示す解析の流れから分かるように、観測データからレイリー波位相速度を推定するには、SPAC法とF−K法ともに微動信号のスペクトル推定が必要である。解析は、観測データが十分長いことおよび計算量が大きいことを考慮して、FFT法を用いた。統計的な手法で微動信号を取り扱うために微動信号の定常性が要求されている。そこで、先ず収録データに対しノイズ解析を行い、デジタルフィルターによりノイズを除去する。次に、ノイズ除去後のデータを一定の区間長(基本区間)で分割し、分散性解析により定常性が良い区間のみ抽出してアンサンブルを作成する。続いてFFTにより各区間のスペクトルおよびスペクトルのアンサンブル平均を計算し、更にPARZENウィンドウによりこのアンサンブル平均スペクトルを平滑する。以上の一連の解析により得られたスペクトルを表面波のスペクトル推定量として用いる。

A SPAC法による位相速度解析

SPAC法による位相速度解析は、微動信号を定常確率過程と見なすほか、観測データにはレイリーの一つのモード(ここでは基本モード)が卓越することを仮定する。解析は先ず推定したスペクトルから各観測データ間の規格化空間自己相関関数を計算する。次に、等価アレイ半径毎の空間自己相関関数の方位平均値を求める。この方位平均値を空間自己相関係数と言う。上述の二つの仮定が満たされれば、空間自己相関係数は第一種0階ベッセル関数で表すことが出来る。即ち:

p(f,R) = J0(2πfR/c)

ここで、p(f,R) は空間自己相関係数、fは周波数、Rは等価アレイ半径、c = c(f)は位相速度である。この式を用い、等価アレイ半径ごとに位相速度を求める手法をSPAC法、各等価アレイ半径のデータを同時に使用し、最小自乗法により位相速度を求める手法を拡張SPAC法と称するが、区別しない場合もある。本解析において、SPAC法は主にデータ品質解析に用いられ、位相速度の決定は拡張SPAC法を用いた。

研究によれば1)微動が多方向から来る場合、同じアレイサイズでSPAC法はF−K法より探査深度が深いという特徴がある。しかし、SPAC法を用いるために、回転対称アレイ(通常に正三角形アレイ或いは円形アレイ)が必要である。

B F−K法による位相速度解析

F−K法による位相速度解析は、先ず各観測点におけるスペクトルの推定量から波数領域に変換し、F−Kパワースペクトルを求める。波動の伝播速度と周波数および波数の間には次の関係が成り立つ:

c( f ) = f/k = f/√(kx2 + ky2)

tan(θ) = ky/kx

ここで、c( f )は波動の伝播速度、fは周波数、kx、kyはそれぞれX方向およびY方向の波数である。θは波動の到来方向である。

微動データにおいて表面波が卓越するなら、表面波のエネルギーが最も強く、F−Kパワースペクトル上にピークとして現れる。ゆえに、各周波数のF−Kパワースペクトルのピークを求め、ピークに対応するkxとkyから表面波の位相速度および到来方向の計算が出来る。

F−Kパワースペクトルの推定にはBFM法あるいはMLM法が用いられるが、本解析においてはより分解能の高いMLM法を用いた。位相速度の計算は一番卓越している波(F−Kパワースペクトルの第一ピークに対応)だけでなく、参考のために、F−Kパワースペクトルの第5番目のピークまで計算した。

F−K法はアレイ形状について厳しく要求しないが、微動が多方向から来る場合、低周波数領域(深部構造を反映する)に縮重現象が起こりやすく、同じアレイサイズの場合、SPAC法より探査深度が浅い。

C 解析諸元

位相速度解析に用いた諸パラメーターは表7−7に示す。

なお、データを分割するとき、5%の余弦コンボリューションテーパーを有するTime Windowを用いた。