3−3 速度構造モデル

今回、以下の5つの手法により速度構造モデルを推定した。

・LINE−98−P測線の反射法解析から基盤より上位の2次元 P波多層モデル(表4−1表4−2図34図43

・LINE−98−S測線の反射法解析から深度約500mまでのスポット的なP/S波水平成層(1次元)モデル(表4−1表4−2図28

・屈折波走時インバージョン(ヘルグロッツ・ウィーヘルト法)による基盤までのP波水平成層モデル(図34

・屈折法解析(初動および後続波)を利用したレイトレーシング法による基盤上部を含めた2次元P波速度モデル(図35−1

・タイムターム法による基盤構造および2次元P波速度モデル(図37

各手法において層区分の定義の仕方が若干異なっているため、各深度における速度が多少異なっているものの、全体的によい一致を見せている。

P波・S波の速度モデル(表4−1表4−2図28図34)は、反射法による速度解析を基にして決定された。つまり、速度スペクトル中からイベントの強いRMS速度値をピッキングした後、各地層区分毎に区間速度を算出した。一般に、解析の信頼性は反射波の多寡に影響されるが、反射面の豊富な上総層群では区間速度が安定して求められた。この結果、浅部のS波速度はP波速度に比べて大きく変化し、それにしたがって、ごく表層部(30m以浅の沖積層)のVp/Vsは3.0以上に達していることが確認された。しかし、S波反射記録においては、上総層群中部以深(深度500m)で有意な反射波が捉えられていないため、反射波による速度解析からこれらのS波速度値を検出することは不可能であった。なお、反射法の速度解析では、経験上、数パーセント程度の速度誤差が含まれること、また、平均速度から区間速度を求めているため、層区分の設定の仕方により任意の深度に対する速度値は多少変化すること、がある。

走時インバージョンは、その前提条件から層区分について一意に求められない。従って、得られたステップ状の速度モデル(図34)について、各ステップの形状そのものに意味はなく、全体的なトレンド(速度勾配)に意味があるということに注意が必要である。

レイトレーシングによる方法では、基盤上部を含めた2次元P波速度モデルを呈示した。一般に、初動走時データだけでは速度構造モデルは一意に求められないことから、この手法は何らかの拘束条件が必要である。今回、反射法により予め基盤形態が把握できたので、三浦層群と基盤の傾斜構造を固定することができた。この結果、4.8 km/s層の存在しない速度モデルが得られた(図35−1)。また、基盤上部の真の速度は約5.2 km/sと推定された。これは、両端発震でのそれぞれの見かけ速度(4.8と5.6 km/s)の調和平均に相当する。なお、観測走時とモデル走時の差が多少目立つところがあるが、基盤以浅の形状などを変化させることでさらによいモデル解が見つかる可能性は残されている。

一方、反射測線の西端の北約5 kmの地点の府中地殻活動観測井(約2780 m)における、油圧インパクタ震源・3成分孔内地震計によるVSPデータから、P/S波の垂直方向の速度が精度よく求められている。その結果、地表から基盤(四万十帯と考えられている)までのP波速度は、地表から約100 mまでの低速度域を除くと、約1.7〜約3.1 km/sまで増加し、基盤岩では平均4.9 km/sの速度であった。また、S波速度については地下100 mから基盤までは、約0.5から約1.4 km/sまで増加している。VSPのデータから求めた深度に対するVp/Vs比は、地表近くで4.5以上を示し、急速に減少して深度約400 mから基盤までは、2.5から2.0の間になる。基盤岩中では平均1.7となる。VpとVsの関係については、基盤岩上の堆積岩について、Vp約1.7 km/s以上の領域では、Vsとの直線的な関係が顕著であり、沖積層より深い未固結層では、

Vs = 0.8 Vp−0.8  (ただし、1.7 km/s < Vp < 3.0 km/s)

で近似できた(単位km/s)。この回帰式は、LINE−98−S測線の速度解析結果でも概ね整合性が得られており(図47)、今後、関東平野の堆積層(第四紀更新統および第三系)においてその有効性が期待される。