(2)屈折法データの解析

足柄平野周辺の地下構造を詳細に検討するために、今回上記屈折法データの解析を行った。解析では、上記走時曲線を入力データとして、トモグラフィ解析(林・斎藤、1998)を適用した。

@ A測線解析結果

A測線は、足柄平野をほぼ東西に横断する測線長16km(遠隔を含めると21km)の測線である。本測線は、距離程(久野発破点を基準とした震源距離)7500m付近で、地表で確認されている国府津−松田断層を横切る測線であり、構造の急変が予想された。

トモグラフィ解析では、走時曲線から読み取れる4.3km/sを最下層の速度とした水平成層モデルを初期モデルとし解析を行った。その結果を、図3−1−1−3−1に示す。図には、走時曲線、解析で得られた最終速度構造モデル、そのモデルに対する波線計算結果を示す。走時曲線には、観測走時と最終速度構造モデルに対する計算走時を示している。

解析の結果得られた速度構造を見ると、距離程10,000m付近で、4.3km/s層の深度が急変していること、その上位の速度層境界の急変点が、地表で確認されている国府津−松田断層位置に向けて移動していることがわかる。これは、想定されている同断層の形状とよく対応している。4.3km/s層上面は、深度2500〜3000mに及んでおり、その上位に速度2〜3km/s台の足柄平野の堆積層が堆積している様子が想定される。一方、平野の西に向けては、堆積層が徐々に浅くなっていることがわかる。この結果は、反射法地震探査の解釈結果とも調和的である。

距離程21,000mの東の端の遠隔発破点に対する走時曲線の距離程0〜3000m付近を見ると、見かけ速度が5km/sを超えており、4.3km/s層を最下層とするモデルでは説明できないようにも見える。その下位の走時曲線との平行性のずれからしても、A測線下に5km/sを超える速度層が存在している可能性が推定される。そこで、4.3km/s層の下位に5.5km/s層があると仮定し、上記した走時を最もよく説明できる深度を求めてみた。その結果を図3−1−1−3−2に示す。この結果によれば、深度4000m前後に5.5km/s程度の速度層がある可能性があることがわかる。ただし、走時曲線の極く一部、それも片走時あるので、本層の信頼性はあまり高くない。

 トモグラフィ解析では、速度層を連続的な速度モデルで表現するため、特徴的な速度値を抽出することが難しい。地下構造をモデル化する上では、その地域の特徴的な速度値を抽出し、その境界深度を求めていく方が都合がよい。そこで、ここでは、後章で述べる神奈川県全域の代表的な速度値として、P波速度で、2.1、3.1、3.5、4.3km/s層に分けた場合、3km/s層を3.1km/sと3.5km/sそれぞれだけにした場合について検討してみた。その結果を図3−1−1−3−3図3−1−1−3−4図3−1−1−3−5に示した。当然、層分けすることにより走時曲線へのフィッティングの程度は悪くなるが、2.1、3.1、3.5、4.3km/s層に分けたモデルは、トモグラフィ解析結果との差はほとんどなく、走時曲線をよく説明することがわかる。一方、3km/s層を3.1か3.5km/s層の1層にした場合を比較すると、3.5km/s層の場合は、上記解析結果に匹敵するフィッティングが得られているが、3.1km/s層の場合には、ずれがかなり大きくなることがわかる。このことから、3km/s層を1層とする場合には、3.1km/sよりは3.5km/sの方がよいことがわかる。

A B測線解析結果

B測線は、足柄平野をほぼ南北に縦断する測線長約10km(遠隔を含めると13km)の測線である。国府津−松田断層とほぼ平行に走る測線であり、距離程6000m程度でA測線と交わる。本測線でも走時曲線から確認できる最大の速度値は4.3km/s程度であったので、4.3km/s層を最下層とした水平成層モデルを初期モデルとして解析を行った。その結果を図3−1−1−4−1に示す。A測線同様、4.3km/s層上面は、A測線との交点付近の最深部で深度2500〜3000mに及ぶが、北側の松田市に向けて急激に浅くなっていることがわかる。

A測線同様、本測線下に高速度の層があるかどうかを確認するために、A測線と同じ深度4000mに5.5km/s層を設定し、波線計算を行った。その結果、遠隔発破点を含む測線長でもこの層からの屈折波は観測されないことが確認された。その結果を図3−1−1−4−2に示す。

また、A測線同様、層構造にした場合についても比較検討した。その結果を図3−1−1−4−3図3−1−1−4−4図3−1−1−4−5に示す。A測線同様、層構造でも観測走時曲線をほぼ説明することができる。ただし、3.1と3.5km/s層モデルによる違いはA測線程明瞭ではない

図3−1−1−1 平成13年度反射法(屈折法)地震探査測線配置図

図3−1−1−2−1 A測線の走時曲線とタイムターム

図3−1−1−2−2 B測線の走時曲線とタイムターム

図3−1−1−3−1 A測線屈折法データ解析結果

図3−1−1−3−2 A測線屈折法データ解析結果(最下層として5.5km/sを設定した場合)

図3−1−1−3−3 A測線屈折法データ解析結果(2.1、3.1、3.5、4.3km/s層構造の場合)

図3−1−1−3−4 A測線屈折法データ解析結果(2.1、3.1、4.3km/s層構造の場合)

図3−1−1−3−5 A測線屈折法データ解析結果(2.1、3.5、4.3km/s層構造の場合)

図3−1−1−4−1 B測線屈折法データ解析結果

図3−1−1−4−2 B測線屈折法データ解析結果(最下層として5.5km/sを設定した場合)

図3−1−1−4−3 B測線屈折法データ解析結果(2.1、3.1、3.5、4.3km/s層構造の場合)

図3−1−1−4−4 B測線屈折法データ解析結果(2.1、3.1、4.3km/s層構造の場合)

図3−1−1−4−5 B測線屈折法データ解析結果(2.1、3.5、4.3km/s層構造の場合)