4−3 地下構造解釈

反射断面(図2−16〜図2−18)をもとに、地下構造について考察する。(図2−16−1図2−16−2図2−17−1図2−17−2図2−18−1図2−18−2

反射法によるA測線の時間断面によると、全体的に不均質で堆積層からの反射に乏しい。足柄平野においても成層構造に乏しいが、箱根火山からの強反射面が東傾斜で潜りこんでいるようであり、平野中央部で往復走時約1.3秒である。この反射面の上下にも平行する反射イベントが認められ、東に行くに従いその傾斜を緩やかにした後、国府津‐松田断層より東側で消滅する。屈折法による解析から、この反射面は4.3km相当層と解釈される。

加藤、他(1983、1999)によれば、相模湾で実施された音波探査の深度断面図から、伊豆半島側の基盤反射面が北東へ約10度の傾斜角で相模トラフ下を通り三崎海丘下まで追跡されている。また、笠原(1991)によれば、今回の測線より北部の足柄平野から国府津−松田断層を横切る測線でバイブロサイス反射法による地下構造調査を行っている。これによると、国府津−松田断層の下方に東下がりになった基盤面(P波速度4km/s)が存在している。今回得られた基盤構造は、やや不明瞭であるが、加藤、他(1983)による相模トラフ直下の結果や、笠原(1991)による結果と類似していて興味深い。

一方、大磯丘陵側の基盤は、屈折法の結果を考え合せると、深度が浅く0.5秒程度の比較的強い反射面に対応すると考えられる。ただし、箱根火山〜足柄平野の基盤との関係については、タイムターム法解析では同じ速度として扱われているが、国府津‐松田断層線を跨いで反射面の連続性が確認されず、同じ速度であるが同一の地層であるとは限らない。

足柄平野では、東傾斜が卓越しているが、一部褶曲しており単純な傾動を示していない。特に、酒匂川付近ではやや規模の大きな背斜状の形状が確認できる。また、小田原市飯田岡より西側には複数の反射不連続(東傾斜)が確認できる。国府津−松田断層帯の直下は、0.1秒〜0.3秒にかけて連続性の強い反射面が存在する。これらは若干東傾斜であり、層厚変化から累積的に東に傾動していると推定される。0.1秒より上位の極浅層部は、反射面が凹凸していて反射強度も弱い。

国府津−松田断層帯と位置的に対応し、断層運動に伴う反射面の不連続が複数確認できるが、これらのうち比較的規模の大きなものは、都市圏活断層図(建設省国土地理院、1996)によりトレースされた2本の断層線の延長上(CDP510〜550、小田原市曽我地区)とほぼ一致する。このうちCDP530付近の不連続は、反射面が一部錯綜しており深部への延長はやや困難であるが、西側の地層傾斜(西傾斜)と東側の地層傾斜(東傾斜)の違いから、2秒以深までリストリックな断層として大磯丘陵側に追跡が可能である。一方、活断層存在の疑いのあるとされている千代台地(CDP640〜650)については、浅部反射面は水平、または、やや東に傾動している。

反射法によるB測線の時間断面によると、測線の中間あたり(CDP200〜450)で浅部に盆状構造があり、この凹部に低速度層が埋めている。ここを境にして両側で反射面の様相が異なっていることが特徴である。北部ではコントラストのある水平な反射面が1秒以上まで確認でき、周辺地質から足柄層群に対応すると考えられる。1〜1.5秒の深部でも、やや起伏のあるいくつかのイベントが認められる。一方、南側は不規則な構造となり、CDP200〜250に高まりがありそれ以南では南傾斜している。屈折法解析においても、A測線とB測線の交差部付近を境にして表層の基底層速度が、南から北で2.0km/sから2.5km/sに変化しており、構造的(物性的)な境界の存在が考えられる。

両測線に対して、推定されたタイムターム値と各層の代表的な速度値を図4−10図4−12に示し、これらを反射記録断面上にオーバーレイして表示したものが図4−11図4−13である。タイムターム値は近似的には境界面までの垂直走時(往復走時の半分)と見なせるため、この境界面は屈折波からみた速度境界と考えて良い。3.0km/s層上面は、反射断面と全般的に良い一致を示している。また、浅部の反射イベントの卓越するゾーンの下部境界付近が4.3km/s層上面付近に大略一致している。このうち、東傾斜で潜りこんでいる箱根火山からの強反射面は、形状がずれるが屈折法による解析から4.3km/s相当層と解釈される。

基盤の反射イメージが、関東平野と比べて全体的に弱くなっているが、測線長など観測諸元に問題はなくノイズ環境も良好であったこと(図2−6)、さらに発破記録からも明瞭な反射波が見えないことから、観測データの品質に起因するとは考え難い。従って、堆積層/基盤のインピーダンス比や堆積層のQ値など岩質に起因するものと推察される。

以上をもとにして、現時点での地下構造の解釈を図4−12図4−13に行う。基盤の形状は、おもに4.3km/s層のタイムタームの形状を参考にした。なお、B測線両端部での見かけ速度からT0約1.5秒に4.9km層が推測されたが、データが測線全域をカバーされていないため全域での形状は不明である。

足柄平野周辺において一連の反射法探査の結果が加わったことで、より微細な構造形態が得られた。例えば、大磯丘陵から足柄平野にかけての基盤の連続性は、今回の調査で初めて取り上げられたものである。これらの断面図から当地域の第三紀〜第四紀テクトニクスを考える上で、新しい知見を得るところが多く、まだ十分に測線は網羅されていないが、今後、周辺の活断層との関係など3次元的な地質構造発達過程の考察が可能となるであろう。なお、基盤反射面の解釈作業に際し、屈折法結果との整合を考えて解釈されたが、この解釈は引き続き十分な議論が必要である。また、今回描き入れた断層線の深部延長については現状における1解釈に過ぎず、将来変更される可能性がある。