(2)東京湾の地震

観測波形と合成波形の振幅値は同程度であり、両波形の卓越周期も近いことから、シミュレーションに用いた震源モデルや地下構造モデルが適切であったと考えられる。震源の深さは56kmと深い地震ではあるが、震央が近いことから最大速度分布の水平動成分に発震機構に起因する方位パターンが顕著に現れている。とくに、NS成分については横浜市のほぼ中央部を走る東北東−西南西方向の線状境界を境として、その北と南で最大速度値の大きい領域が二分されているのが特徴的である。また、最大速度値は、県中西部で急激に小さくなる。

次に、観測波形と合成波形を比較し、以下に特徴を列挙する。

@ 観測波形では、横浜市に位置するいくつかの観測点でかなり大きな振幅値を示しているが、このような現象は合成波形には見られない。この現象は局所的であり、付近の観測点における観測波形でも振幅値が大きくなっているわけではないため、観測点の極近傍の影響あるいはノイズ混入の可能性が考えられる。

A 両波形とも短周期の振動が卓越しており、S波初動付近に大振幅の孤立的な波が多くの観測点で見られ、概して振動継続時間は短い。とくに、県中西部の水平動成分において顕著である。これらの特徴について、両波形の整合性は良好である。

B 県東部における観測波形の水平動成分には上記Aと同様に、S波初動付近に大振幅の孤立的な波が見られ、この特徴は合成波形にも認められる。しかし、合成波形では後続波群の振幅がかなり小さいのに比べ、観測波形では振動継続時間が長い傾向がある。卓越周期が短いことから、浅部地下構造が影響しているものと考えられる。

以上のように、観測波形と合成波形で一致していない点もあるが、両波形の整合性は概ね良好である。また、最大速度分布についても、9.2〜9.3節での検討結果によって明らかにした神奈川県地域における強震動の振動特性と調和的である。したがって、今回地震動シミュレーションに用いた地下構造モデルは概ね妥当なものであると考えられる。