8−2−1 地下構造調査手法の整理

図8−2−1に強震動予測の枠組みを示す。地下構造調査は、この中で理論的な強震動予測を行うための地下構造モデルを構築する手段として位置付けられる。

震源断層モデルと震源域を含む3次元地下構造が与えられたときに、地震動の計算が可能となる。ただし、現状では周期1秒より短周期の地震動を理論的に計算するに十分に詳細な地下構造を広域にわたって決定するのはいまだ困難であり、そこでの地震動の計算手法も確立しているとは言えない(入倉,2000)。

図8−2−1においては、地域防災計画に関する項目が見られないが、シナリオ地震に対する強震動評価が実施されれば、当然見直しはせまられると考えられる。

地下構造調査手法には、概査に相当するものと精査に相当するものがある。また、現地調査を実施する前に、既往のデータを整理しておくことは、無駄な調査を省くことができる。

通常の流れは、概査を実施して、強震動予測上問題となる急激な段差構造、盆状の構造あるいは伏在断層が想定される場合に精査を実施する。堆積層及び基盤層の物性値(Vp,Vs,ρ,Q)を把握するための深部ボーリングと各種検層は点の情報ではあるが、非常に精度の高い情報である。

現時点で最も精度の良い探査手法の組み合わせは、調査地域に格子状に反射法測線と屈折法測線を配置し、その交点で深部ボーリングと各種検層を実施することである。しかしながら、現実には費用と実施する場所の問題(都市部では測線設定が難しい)がある。調査地域の特性と各探査手法の特徴を考慮して、調査計画を立てることになる。

調査地域の特性は、概略地質分布、調査範囲、探査深度などであり、人口密集地帯では精査にあたる探査の実施は難しくなる。調査範囲が広くなり、探査深度が深くなれば、調査費用もかなり大きくなる。また、平坦な基盤構造よりも、複雑な基盤構造の場合、精査による探査や深部ボーリング掘削等が増加し、費用がかさむ。

参考のため、表8−2−1に主な堆積平野の広さと概略基盤深度を示す。

表8−2−1 堆積平野の概略の広さ・基盤深度・基盤岩・基盤速度

上記の堆積平野について、既存資料、地下構造調査による探査測線・数量などの概略をまとめ、表8−2−2に示した。関東平野、大阪平野は既存資料が比較的多い。

表8−2−2 堆積平野における地下構造調査の概略

図8−2−2に阪神淡路地区で実施されている反射法地震探査の測線配置を示す(横倉・他,1999)。陸上部はほとんどが震災以降に実施された測線であり、狭い神戸地域(約20×4km)に6〜7本の測線が配置されている。この地域では、兵庫県南部地震の原因となった活断層系を含む周辺地域の深部構造、活動歴、断層の動的特性や微細構造などを明らかにするために調査が実施されている。必ずしも地下構造調査を主目的とした調査ではないが、かなり稠密な調査が実施されている。

既往データの整理・概査・精査について、各段階における探査手法の特徴を記す。探査手法自体は同じであるが、探査密度や解析手法の適用の仕方により、概査あるいは精査と位置付けられる。

また、兵庫県南部地震以降、強震観測の重要性が再認識されおり全国的に多数の観測点が配備されている。これらも地下構造モデルを作成する上で、データとして利用できる。また、地下構造モデルの検証としてその波形記録を利用することが考えられるので、利用法と配備状況をまとめた。

既往データの整理 図8−2−1−1参照

概査 図8−2−1−2参照

精査 図8−2−1−3参照

強震観測データ 図8−2−1−4参照

以下に既存データ整理・概査・精査を組み合わせた一般的な3次元地下構造モデルの作成の流れを示す。各項目の内容・考え方については次ページ以降に整理した。

図8−2−3 3次元地下構造モデルの作成の流れ

以下図8−2−1−4参照

神奈川県における地下構造調査の流れを図8−2−4に示す。既往データの整理(既往データの整理と強震観測点の確認)、概査、精査を前記の位置付けに従って、各々分類した。必ずしも、前記の分類・流れに沿っておらず、精査がかなり先行して行われている。

神奈川県を含む関東平野の場合は、大まかに概査に相当するデータ(タイムタームマップ)と深部ボーリングのデータが比較的多い。

また、平成10年〜12年にかけて実施された横浜市・川崎市の反射法地震探査は、精査に相当するもので、微動アレー探査は概査に相当する。

図8−2−4 神奈川県における3次元地下構造モデル作成の流れ