3−2 今後の課題

今年度まで実施してきた調査や解析の結果残された課題、得られた三次元地下構造モデルの今後の活用について、以下のように考える。

千葉県地域の想定地震(例えば、南関東地震)に対する地震マップを作成し、想定地震に対する強震動を予測することは、地域の地震防災対策を考える上で、重要な課題である。地下構造調査の成果である堆積平野における三次元速度構造モデルをより現実に近いものに修正し、今後、想定地震の強震動予測を行っていくことが期待される。

巨大地震の強震被害を考える上で、周期2秒から20秒程度の「やや長周期」地震動の特性の把握が大きな課題となっている。2003年十勝沖地震(Mj8−0)で、震源から遠く離れた苫小牧市内の石油タンクがスロッシングによる大被害を受けたことから、千葉県地域にも同様の危険性が指摘されている。今回の調査結果でも、県中央部地域の東京湾岸から内陸部にかけて、周期10〜11秒の地震動が卓越することが確認されており、大型石油タンクが多く存在する京葉臨海コンビナートにおいて、この固有周期を持つ石油タンクのスロッシング等の対策が必要である。

今回作成した三次元地下構造モデルは、最新の反射法地震探査結果や坑井データを反映したものであるが、今後の新しい調査を通じて逐次修正していく必要がある。特に、千葉県全域を対象に考えた場合、地下構造調査が十分に実施されていない房総半島南部などにおいては、速度構造に関して未知の部分が大きい。例えば、基盤岩深度が浅いと想定される鋸南町においても低周期の増幅効果が見られたことから、保田層群相当層(P波速度4km/s層程度)が深部まで続いている可能性がある。また、関東堆積盆地の周縁部にあたる房総半島中部において、振幅が増大した地域がシミュレーションで認められた。これに対する観測結果は、観測点が十分でなく不明瞭であるが、地震観測網の拡充などにより実証することが望まれる。当地域でのモデルの修正が必要かどうかについて、今後検討する必要がある。

今回の地下構造調査はS波速度がおよそ0−5km/sより速い深層地盤を対象にしたもので、表層地盤は対象としていない。その結果、周期2秒程度までの地震動を対象に評価したが、今後、より短周期の地震動を含めた強震動を評価するために、浅層地盤のモデル化と深層地盤モデルとの融合が求められる。浅層地盤は、主に周期1、2秒未満の地震動に影響を与えるので、人工地盤などの軟弱地盤の特性を考慮しながら、きめ細かいモデルを作成する必要がある。しかし、表層地盤のS波速度は垂直・水平方向に連続性が乏しいため、三次元モデルへの統合が難しい。表層地盤の扱いは、平均S波速度と厚さを使って単純に1層と単純化した場合の応答解析、または、統計的・経験的手法(グリーン関数法)が現状では有効な手法と考えられる。

今回作成した三次元地下構造モデルは、今まで手に入れることのできなかったデータを基にしたモデルであり、今後の研究によりより完成したものとしていく(「官」と「学」の連携)。このモデルは地震防災対策の基礎データであり、地震防災対策への活用方法の検討と活用の実施を進める。

モデルや調査データについて、今後さまざまな分野で活用していく。また、そのための広報をしていく。併せて、地震や地質構造に関心をもってもらうための材料とする。