3−1−5 三次元地下構造モデルの検証

推定された三次元地下構造モデルが、地震動の計算モデルとして有効であり、三次元シミュレーションによる計算結果と観測された地震記録が調和的であるかどうかを確認するために、対象地域で発生した中規模の地震を用いて三次元地震動シミュレーションを行い、地下構造速度モデルの妥当性について検討した。

今回、使用する地震は、低周波成分を含む記録が多くの観測点で得られ、かつ、震源が単純に点震源近似できるサイズ(マグニチュード5程度)が望まれる。さらに、伝播過程の影響を受けない関東平野(千葉県地域)周辺で発生し、かつ、震源の深さが比較的浅く、盆地表面波が強く生成されているものが望ましいことから、これらを考慮して、2004年までに強震観測網で得られた地震記録の中から下記2つの地震を選択した。

・東京湾(千葉市付近)で2003年10月15日に発生した地震

・千葉県南部で2003年9月20日に発生した地震

先の「三次元モデルの作成」においては、より真実に近い5層地下構造モデルを作成したが、三次元シミュレーションに使用するモデルは、表層(0−2km/s層)を減らして4層モデルとし、かつ、各層の物性値は一定としてモデルを単純化した。つまり、三次元シミュレーションでは、不均質性の大きい極浅部構造の取り扱いは、三次元モデルへ展開する上で困難である点、計算機(メモリー)の能力上困難である点、および、今回の地下構造調査の対象は深部地下構造であり表層部のデータがないこと、などから解析される周期範囲をやや長周期帯域に絞り込むこととする。今回、波形計算の有効周期(下限)は2秒とした。この理由は、2−3−2−1の線型地盤応答解析の結果(図32)で、当該地域の表層地盤が地震動に影響を及ぼすのは周期2秒程度以下であると想定され、表層地盤の三次元的不均質性の把握については十分でないことから、現状では周期2秒程度以下の周期の波形を再現するのは困難であると考えられたためである。

三次元波動場計算では、地下構造モデルは三次元、震源は点震源とする三次元波動場を計算する。数値分散を抑えながら効率良く計算を行うために、グリッド間隔を深度方向に変化させることのできるスキーム(variable grid spacing 型)を採用した(Pitarka, 1999)。科学技術庁防災科学技術研究所の広帯域地震観測網による手動メカニズム決定で得られた地震モーメント推定値を基に点震源における振幅を与え、震源メカニズムは、方位角(strike)、傾斜角(dip)、すべり角(rake)で与えた。震源時間関数(モーメント速度関数)は、三角型で与えた。震源継続時間は、試行錯誤的に与えた。水平方向のグリッド間隔は200m、深度方向のグリッド間隔は50〜500mに設定した。数値分散(グリッド分散)による数値誤差を考慮すると、数値計算結果が10%以下の誤差範囲に収まり信頼できる周期範囲は、概ね2秒(表面波は2秒、S波実体波は1秒程度)である。もちろん、荒い精度(振幅を2倍、半分以内の整合)で波形合わせを議論する場合は、1秒程度までの周期の計算結果が有効であると考えられる。

内部減衰については、Graves(1996)に従って、Q値(周波数の1乗に比例)を計算している。ここでは、中心周期とみなされる周期1秒におけるQ値を与えている。Q値については、シミュレーションの試行錯誤の後、いずれのモデルについても、中新統(保田層群相当層)までの堆積層は一様に50、中新統(保田層群相当層)は100、基盤は200と与えた。また、密度、P波速度については、既存資料に基づいて表4のように設定した。地表境界には応力がゼロになるように自由境界を与えて,残る3つの境界には、Cerjan, et al−(1985)に基づく方法を与えた。標高変化については、計算に考慮されていない。

作成した三次元モデルを用い、震源過程が比較的単純であると考えられる中小地震の地震波シミュレーション(一次元および三次元)を行い、観測波形と比較・検討した。強震動データを参照して一次元解析による地下構造モデルの修正と検証を行ったうえで、三次元地震動シミュレーションにより最終モデルの検証を行った。三次元モデル内で発生した2つの地震について、三次元地震動シミュレーションを実施した結果、計算波形と観測波形が対象とする周波数領域(周期2秒〜15秒)において許容範囲内(振幅比50%〜200%)であったことから、本調査で作成した三次元地下構造モデルがおおむね適切であると言える。従って、構築した三次元地下構造モデルは、現時点で最良のモデルの1つであると言え、現実的な地震動予測作業に適した精度を有していると考えられる。

ただし、今回作成したモデルは、浅層部においてS波速度0−5km/sのところより深部についてのみ作成していることに留意が必要である。