(1)S波速度

S波速度については、以下の手法を検討した。

1a) 微動アレー探査から求めたS波速度

平成15年度に、千葉県全体で実施した40点の微動アレー探査結果を同一の観点で再解析を実施した。

全体的に千葉県は基盤深度が2000〜3000mを超える地域が多く、このような場所では、十分な低周波数領域の位相速度曲線が得られない限り、基盤岩のS波速度について信頼性のある解析は難しい。堆積層中のS波速度については、速度の遅いごく表層部分を除いては、整合性のとれた解析結果が得られた。

1b) 屈折記録から求めたS波速度

千葉県内の地震探査では、P波バイブロサイスの発震記録中に変換S波と考えられる波が観測されることが多い。これは発震点付近の地質状況により、地表付近で変換されたものと考えられている。

この波の走時を読み取り、3層構造を仮定し、直線近似をし、構造解析を行った。この手法により、深度1000m前後までのS波速度が求まった。この深度は、おおむね上総層群の中位から下位に相当する。

1c) P波速度より推定したS波速度

VSPで求められたVpとVsの結果より、一定の速度範囲においては経験式を当てはめて考えることができる。下総深層地殻活動観測井での解析結果では、P波速度1−65〜3−0km/sの範囲(S波速度0−41〜1−62km/s)で

Vs = 0−90×Vp − 1−08 (km/s)

という近似式が求められている。

この式はある程度速い速度の堆積層中の関係式であり、地表付近の低速度層および地震基盤より深部については、成り立たない。

上記手法を検討した結果、基盤岩のS波速度については、下総VSPでの測定値(山水ほか、1999)微動アレー探査の推定値を参照して3−0km/sと固定した。

保田層群相当層から下総層群にかけての堆積層のS波速度は、微動アレー探査により求まっている。微動アレー探査によるS波速度の分布範囲と反射法・屈折法探査のP波速度からPS関係式により求めたS波速度がほぼ同じ値になることから、微動アレー探査のS波速度をそれぞれの地層のS波速度の分布範囲とし、後の一次元シミュレーションにより各層の最終的なS波速度を決定した。