3−1−3 地質・地下構造

県西部の調査地域は、東京湾沿いの埋立地と、下総台地が大半を占めている。また、県中央部の調査地域は、東京湾内の海域・海岸沿いの埋立地・沖積地・下総台地となる。

県西部地域ではボーリング調査結果を中心に新第三紀以降の堆積層の厚さが確認されており、層厚は1000〜2500m程度である。県中央部地域では、ブーゲー異常や屈折法地震探査から堆積層の厚さが推定されており、その層厚は最大で3000〜4000mとされる。その下位に中・古生代の基盤岩(先新第三系)が分布するとしている。前述の深層地殻活動観測井「下総深層地殻活動観測井」「江東深層地殻活動観測井」「成田地殻活動観測井」・「船橋FR−18」・「船橋地盤沈下観測井」・「八街R−2」では、三波川帯・秩父帯の基盤岩が確認されている。しかし、これらの坑井より南側では、2000m以上掘削されている坑井はあるものの、基盤岩に着岩せず、推定されている秩父帯や四万十帯は確認されていいない。

基盤岩深度の一般的な傾向は、ブーゲー異常図(駒澤,2002)(図52)を参照すると、県西部・北部地域では比較的単傾斜で南南西方向に深くなっていく形状が想定され、また、県中央部地域では、市原市を中心とする房総半島中西部に基盤の最深部があることが想定される。

鈴木(1998,2001)は、千葉県で実施したものを含めて、反射法地震探査・ボーリングデータをもとに先新第三系基盤の地下構造を推定している。これによると、関東平野の基盤岩上面の深度は、重力データから求められたものよりやや深い傾向がある。房総半島中央部では基盤岩までの深度は4000mを越える。

山中ほか(2002)は、微動アレー調査結果から、関東平野の基盤深度を求めている。これによると、房総半島中央部(市原市付近)の最新基盤深度は3000mを超えるが3500mには達していない。

基盤岩の上位には、既存の表層地質図によると県中央部地域の南部では第三紀中新世の保田層群相当層が分布する。保田層群相当層は、房総半島南部で広く分布するとされるが、県中央部の調査地域以北では確認されていない。しかし、富津市で掘削された大佐和の坑井(石和田ほか、1965)では、深度2000m以深に保田層群相当層が確認されており、地表には分布しない保田層群相当層が調査地域の南部に分布していると考えられる。千葉県での調査結果から保田層群相当層のP波速度は、3〜4km/s程度になると考えられる。

 

鈴木(2001)によれば、三浦層群相当層の層厚は、横浜市金沢区から、富津市を結ぶ線上でもっとも厚くなり、北に向かって層厚が薄くなるとされる。県中央部地域より北側に地域には、三浦層群相当層まで掘削されたボーリングがあり、ほぼ市原市より北側の地域では、先新第三系基盤岩の上に新第三紀中新世から鮮新世に堆積した三浦層群相当層が分布する。ただし、成田地殻活動観測井のボーリング結果や県西部地域の調査結果によると、千葉県北東部(およそ白井市以東)では三浦層群相当層は分布せず、基盤岩の上に上総層群が分布している。坑井のデータや、これまでの反射法・屈折法調査結果から三浦層群相当層のP波速度は、大略2−7〜3−3km/sである。

三浦層群相当層の上位には、これを不整合に覆い(黒滝不整合)、鮮新世から更新世に堆積した上総層群が分布するとされている。黒滝不整合は、房総半島南部の地表でほぼ東西方向の不整合面として確認されている。上総層群は、深海〜半深海堆積物であり、房総半島の東部では上総層群が地表に露頭としてあらわれているため、地表調査により地層区分とその岩相が明らかになっている。しかし、上総層群が地表に露出していない地域では、ボーリング資料に基づくしかなく、岩相の変化は捉えられるものの、詳細な地層の対比は行われていない。反射法物理探査やボーリングデータにおいては、詳細な地層の対比は困難である。

上総層群は全て整合的に堆積しており、その下面は黒滝不整合、上面も不整合と考えられるが、上面の具体的な地質時代には様々な意見がある。上総層群のうち長浜層の基底はその下位の市宿層を削剥し、長浜不整合と呼ばれる。本報告書では、長浜層とほぼ同一時代の地層である万田野層の基底を、上総層群と下総層群の境界として採用した。楡井ほか(1977)は、千葉市周辺のボーリング資料により、千葉市付近で深度約450mにある下位層を緩い角度で削る不整合面を東京湾不整合と呼び、これが上総層群と下総層群の境界に対応する。

上総層群の上位に、中期更新世の浅海性堆積物が(下総層群)が広く分布する。下総層群の最上部は、いわゆる下末吉ローム層または常総粘土層である。

千葉県で実施した地下構造調査は、地震防災対策の基礎資料としての県西部・県中央部地域の地下構造を把握し、三次元地下構造モデルを作成することを目的としている。分布する層群と速度構造がほぼ対応すること、各層群の境界が連続する反射面として確認されていること、層群単位で対比することにより面的な広がりが得やすくなることなどから、層群毎の対比を行った。

調査地域に分布する層群について、下位から順に調査の結果判明したことをまとめる。また、調査地域で見られた断層について述べる。

地層の区分については、坑井のデータ、地表地質を参考にして以下の反射面をマーカーとして区分したが、ここでの区分は物性境界に対応したものであり、ほぼ地層境界と考えられるが、厳密な地層対比については調査の目的外であり検討していない。

なお、平成15年度には、現マーカーb(ただし現マーカーbを現マーカーBが削っている地域については現マーカーB)を上総層群上面と解釈し、表記も「マーカーB」としていた。現マーカーBがどの反射法断面でも下位の反射面を削り込み、この面を境界に構造も大きく異なることから、上総層群上面は現マーカーBに解釈を変更することとし、マーカーBとB'の表記を入れ換えている。層群の境界を大文字、層群中に見られる特徴的な反射面を小文字に統一した。

A 下総層群中の反射面

B 上総層群上面

b 下総層群中の反射面(県中央部地域の一部でB面の下位に位置)

b' 下総層群中の反射面(県西部地域における屈折境界に対応)

b'' 上総層群中の反射面

C 三浦層群相当層上面(黒滝不整合)

D 保田層群相当層上面

E 先新第三系基盤岩上面

各境界面の区分の根拠となるコントロールデータは、千葉県西部地域では防災科学技術研究所「下総深層地殻活動観測井」・同「江東深層地殻活動観測井」,千葉県「船橋地盤沈下観測井」および既存坑井「流山NP−1」を活用し、これらの坑井で上総層群上面・三浦層群相当層上面・基盤岩上面の深度が確認されていることから、深度断面図上で、その深度で比較的連続性の良い反射面を境界として追跡した。

千葉県中央部地域では、同「富津地殻活動観測井」(基盤未到達)、既存坑井「八街R−2」、海上保安庁の東京湾の測線を経て防災科学技術研「江東深層地殻活動観測井」、の地層区分をコントロールデータとし、反射法断面図上で対応する反射面を追跡した。西部地域と同様に、「江東深層地殻活動観測井」・「八街R−2」では上総層群上面・三浦層群相当層上面・基盤岩上面の深度を基準としたが、「富津地殻活動観測井」では、三浦層群相当層は確認されているが、下位に保田層群相・基盤岩は確認されていない。

房総半島を東西方向に横断する平成15年度測線および千葉大学の調査測線は、下総層群から上総層群上部の地層が露出している地域を通っており、地表地質と直接対比を行うととともに、各測線を経由してコントロールポイントの坑井とも対比している。

この他、測線外の地域の地質構造の参考として、防災科学技術研究所の「千葉地殻活動観測井」,「成田地殻活動観測井」,「養老地殻活動観測井」のボーリングデータも用いた。

千葉県が平成10年度から平成15年度にかけて実施してきた地下構造調査の反射法深度断面図に、解釈にる地質境界を加えた断面図を図53図54図55図56図57図58図59に示す。

以下、各地層区分境界について分かったことをまとめる。