(1)基盤岩(マーカーE以下)

千葉県西部地域では基盤岩の上面は、断面図ではわずかな起伏が確認されているが、おおむね南西方向に緩やかに傾斜し、急激な変化は見られない。基盤構造によって地震の際に波が集中するような構造ではない。基盤岩上面の反射面(マーカーE)は、県西部地域ではほとんどの断面で連続した強い反射面として確認された。これは、上位の地層(三浦層群相当層、所により上総層群)との音響インピーダンスコントラストが大きいこと、比較的基盤岩上面深度が浅いことによるものと考えられる。

調査地域の南西部(市川市−浦安市付近)では基盤深度は2500mより深く、他の断面図に比べて細かい凹凸が目立つ。この断面図で三浦層群相当層や上総層群下部の反射面は、基盤岩と同様に変形を受けているようにも見えるが、その関係は明瞭ではない。

平成12年度松戸−流山測線の流山付近(図56、CDP−230付近)では、北側の基盤岩の反射面が南側の基盤岩の反射面に潜り込むような構造が確認されている。また、平成10年度測線の手賀沼付近(図53、CDP−1300より北側)でも基盤岩上面の起伏がやや激しくなり、基盤岩の上面がずれているように見える。

平成9年度の活断層調査測線と平成10年度、平成12年度の地下構造調測線を接合した、東京湾から利根川を結ぶ測線では、基盤岩上面は東京湾に向かって緩く傾斜し、断面上でその勾配は北部(我孫子市から沼南町)で約2度、中央部(沼南町から船橋市)で約5度、南部(市川市・浦安市)では起伏はあるもののほぼ水平になっている。基盤岩の深度は、利根川付近で1000m、浦安付近で2500mとなっている。

屈折法地震探査による基盤岩のP波速度は、調査地域北部(ほぼ船橋市より北)5−5〜5−7km/sとなっている。この基盤岩の速度は、同地域に位置する防災科学技術研究所下総深層地殻活動観測井の地質データが三波川帯であることから、三波川帯のP波速度を示していると考えられる。

一方、船橋市から浦安市を経て江東地殻観測井にいたる屈折法探査では、基盤岩のP波速度は、約5−2km/sと求められ、北部より有意に遅い。屈折法測線の端に位置する江東深層地殻活動観測井のデータから、秩父帯の速度を示しているものと考えられている。なお、基盤岩の速度の境界には、船橋付近にあると考えられる。

千葉県中央部地域においては、反射法地震探査により最大深度4000m程度までの基盤岩の構造が求められた。しかし、4000mを超えると想定される地域については、反射法地震探査では構造は明らかにはされなかった。

一般的に、基盤岩上面は上位の堆積層との速度コントラストが大きいと強い反射面となるが、保田層群相当層が厚く分布する地域では、基盤岩上面の反射波は弱くなる。平成13年度測線と平成15年度測線の交点付近は、屈折法地震探査から求められたP波速度から保田層群相当層と考えられる地層が分布しており、基盤岩上面の反射波が明瞭ではないと考えられる。

平成13年に実施した富津市〜市原市(市原IC)までの測線では、測線北端部分を除いて、反射法地震探査では基盤岩上面の明瞭な連続する反射波は得られなかった。その原因として、まず震源エネルギー不足が検討されたが、屈折法地震探査のバイブロサイス4台の発震記録でも、基盤岩上面の明瞭な反射波は得られなかったことから、基盤上面の深度が深く、かつ速度のコントラストが低いため反射保が得られないものと考えられた。平成13年度の基盤岩上面の解釈は、屈折法地震探査の結果による。

平成14年度に実施した市原市(市原IC)〜八街市までの測線は、平成13年度の測線と連続し、重力異常の極小部分を横断する測線として設定した。基盤岩上面の反射波は、八街市の既存坑井「八街R−2」のボーリングデータから連続して確認され、平成14年度測線の南端部、市原市の養老川との交点付近(図55、CDP−2400付近)で不明瞭になった。

平成15年度の調査では、市原市佐是(図56、CDP−1500付近、市原市牛久の西側、養老川付近)で西落ち落差約1500mのほぼ垂直な断層が確認された。この断層は、その形状や反射波が見えなくなる状況から、市原市佐是からほぼ養老川沿いに、この断層が平成13・14年度測線の養老川との交点付近へ連続すると想定した。基盤岩上面の深度は屈折法地震探査結果から推定した。

平成15年度測線のうち、保田層群相当層は、養老川沿いの断層より東側では、市原市鶴舞付近までは基盤岩深度は約4000m、基盤上面はほぼ水平である。千葉大学の房総東部測線、石油公団の房総沖浅海域の調査データを参照すると、東南東方向(太平洋側)に向かって基盤深度は徐々に浅くなり、房総半島太平洋岸で基盤上面の深度は2500m程度である。基盤深度が浅くなるにつれ、ブーゲー異常値は増加しており、傾向は一致している。

また、県中央部調査地域の北東方向(八街市方面)や東京湾に向かう西方向へも基盤岩深度が浅くなり、ブーゲー異常値が小さくなる相関が見られる。これらの方向についてはブーゲー異常値と基盤深度の傾向はよく合っている。しかし、基盤岩上面深度がほぼ4000mを超える南方向(市原市から富津市にかけて)では、ブーゲー異常値は増加するもの、基盤岩上面深度が浅くなる傾向はなく、相関はみられない。この理由については現時点では明らかではないが、断層を境界にして南方向に保田層群相当層が分布していることも影響していると考えられる。

平成15年度測線では基盤岩のP波速度は4−9km/sで、平成13年度の調査結果と交点で矛盾なくつながる。基盤岩のP波速度は、房総半島東部では4−5km/s程度と西部に比べやや遅くなっている。調査地北部の平成14年度測線では、基盤岩のP波速度は5−2km/sとやや速く、平成12年度の浦安−船橋測線と同じ値を示している。これは、基盤岩の岩質(秩父帯と想定される)を現わしている可能性がある。