(3)微動アレー探査

千葉県西部地域では26地点、千葉県中央部地域では14地点、計40地点の微動アレー探査を実施した。この他に、極浅層部のS波速度構造を調べる試みとして、平成12年度に4点、平成13年度に3点の極小半径の微動アレー探査を実施した。

表3−1−2−3

(1)微動アレー探査観測点の配置

微動アレー探査の観測地点の選定にあたっては、観測地震波形の解析を前提とし、ボーリング地点・地下構造調査探査測線・地震計設置地点等を考慮した。

ボーリング地点では、地下構造調査測線・地質年代が把握されていること、千葉県震度情報ネットワークの地震計は、各市町村の役所・役場に設置されており、表層部の地質状況の把握や、N値とS波速度の関係式による表層部S波速度の推定が可能である。

(2)解析方法

千葉県西部地域の微動アレー探査では、微動アレーデータの位相速度解析において、F−K法とSPAC法(空間自己相関法)の比較を行い、地震計の設置に制約がある場合を除いて、波の到来方向に対する解析結果の偏りの少ないSPAC法がすぐれているとの結果を得た。また、アレーの形状としては二重三角形が良く、基盤深度2500m前後のS波速度構造の把握には、最大アレー半径を2000mと設定すれば十分有効であることがわかった。この結果、半径200m,600m,2000mの組み合わせを千葉県の微動アレー探査の標準とした。

平成12年度には、より基盤岩上面深度の深い地域での探査の可能性を探るため、半径3000mの特大アレー探査を実施したが、相関性が低く位相速度曲線への統合ができなかった。しかし、平成16年度には、半径4000mの特大アレー探査を実施し、解析可能な結果を得ることができた。これは、アレー半径の組み合わせ、観測時間などの探査の仕様の設定と、微動のパワーとノイズレベル等の状況によると考えられる。

(3)解析結果

(3−1)県西部地域

坑井データや地震探査データ等とのキャリブレーションにより、千葉県西部地域・千葉県中央部地域では基盤岩までのおおよそのS波速度構造が得られた。

観測仕様(アレーサイズや記録時間)を注意して設定すれば、周期8秒程度までの位相速度の分散曲線が求められ、屈折法や反射法の地震探査と組み合わせて用いるとかなりの精度で堆積層のS波速度、および、基盤深度が求まることが分かった。

深層部の基盤深度を推定するためには、位相速度曲線の長周期(低周波数)側の記録が重要であり、より多くのパワーの得られる時期を選ぶ必要がある。千葉県では基盤岩上面までの深度が深いため、微動アレーで求めた基盤岩上面深度と基盤岩S波速度はあくまでも参考値として考えた。

微動のパワーは気象条件と密接な関連があり、2000m程度のアレー半径の調査では、冬季もしくは夏季の台風接近時等にパワーが大きい傾向がある。

位相速度曲線の遺伝的アルゴリズムによる逆解析については、拘束条件を変えた検討を行い、基盤深度を固定した解析では三浦層群相当層の上面に相当する境界が区分されず、上総層群と三浦層群相当層とを含めた地質構造で解析された結果となった。基盤S波速度を固定した解析は安定した基盤深度を求めることができず、最終的には層数と探索範囲を指定するだけのフリー解析の結果から、もっとも適切と考えられる解を採用した。

フリー解析の結果では、残差最小である解が必ずしも最適な解ではないことがあり得る。必ずしも最適解でないものについては、数値計算には必ずしも組み込めない「遠い隣の解の拘束条件」を、バックグラウンドとしての地質条件あるいは広域的な重力異常データで補いあるいは参照し、これらと調和するように解を求め直すこととした。

極浅層部(深度およそ50mまで)の分解能は、通常の微動アレー探査では限界があったため、平成12年度に4地点において極小アレー調査を試みた。極小アレーでは、調査地点の極近傍の浅層のS波速度が得られたと考えられるが、比較的近傍で実施された通常仕様の微動アレー探査の結果とはとうまく統合できなかった。これは、極浅層部のS波速度が短い距離で変化していることによると考えられる。

(3−2)県中央部地域

平成15年度には、東京湾臨海部の京葉工業地帯において4点追加調査を実施するとともに、これまでに取得された全点の位相速度曲線を再解析し、全地域で整合性のある解析結果を求めた。再解析は、これまでの反射法・屈折法調査の解釈で判明した地層区分と、微動の解析結果の層構造が誤差の範囲で一致するという制約条件を付けて実施した。

基盤深度が3000mを超える千葉県中央部地域では、平成13年度には最大アレー半径を2000mとするデータを取得した。逆解析は6層構造(基盤、三浦、上総2層、下総2層)を基本として実施したが゛逆解析の結果、10点のうち3点では基盤上面深度が4500mを越えること、保田層群相当層に相当するS波速度1−8〜2−0km/sの地層が基盤の上位に存在することが確認され、7層構造による解析を実施した。

平成13年度にも3点で極小アレー調査を試みており、通常の解析結果に比べて、地震探査の解析結果との整合性が良くなる傾向が見られた。

 平成15年度には、平成15年度十勝沖地震で苫小牧の石油タンクにおいてスロッシングによる火災が発生したことから、急遽、長周期地震動の影響が考えられる京葉コンビナート地帯の臨海部に3点、やや内陸部に1点の微動アレー調査を追加した。臨海部の工場地帯では、埋立地の形状と国道16号線のノイズを避けるために、最大アレー半径は1155mに制限されたが、工業地帯の各工場の理解と協力により夜間観測を実施したこと、また地震計を同時に10台使用する三重三角形アレー配置にするなどの対策を取った。

工場のノイズがデータに入ることが懸念され、夜間でもノイズレベルは高かったが、適切なフィルター処理を行うことによりノイズは除去でき、良質なデータを得ることができた。その結果、必要とされる深度までの解析結果を得ることができた。

 内陸部の市原市役所付近を中心とするアレーは、反射法・屈折法の結果から基盤岩上面までの深度が4000m程度と予想されること、県西部地域で実施した半径3000mの微動アレー探査では相関性が低くなったことを考慮し、事前に概略速度モデルから位相速度曲線を求めるシミュレーションにより最適なアレーの組み合わせを考察した。その結果、最大アレー半径4000m、アレー配置の形状も三重三角形を幾重にもずらして重ねる手法を採用し、計7日間のデータを取得した。データを解析した結果、最大周期8秒までの位相速度曲線が得られた。このデータに関しては、通常の解析を行ったものの、現時点では得られた多量のデータに対する十分な評価は行われておらず、今後の検討課題として残されている。

平成10年度から平成13年度にかけて取得された微動アレーデータと、平成15年度に取得されたデータは、解析手法・判断基準が異なっているため、平成15年度に、位相速度データに遡って、統一的な観点からの逆解析を試みた。この逆解析では、解析する層の数を反射法・屈折法の解析結果から求められた三次元地下構造モデルに合わせた。具体的には、県西部地域の観測点では4層構造とし、県中央部地域で三浦層群相当層の下位に保田層群相当層が推定されている観測点では5層構造として、その他の観測点では4層構造として解を求めた。

千葉県では、分布する堆積層の数が少ないこと、地質構造が緩やかなことなどの条件があり、拘束条件の緩いフリー解析でも大略の地下構造と対応した。

得られた各地質区分のS波速度はばらつきがあるものの、一定の範囲に分布している。各層群のS波速度は以下の通りである。

下総層群    0−4km/s 〜 0−65km/s

上総層群    0−7km/s 〜 1−15km/s

三浦層群相当層 1−1km/s 〜 1−65km/s

保田層群相当層 1−8km/s 〜 2−2km/s

基 盤 岩   ≒3−0km/s

ただし、微動アレー探査による基盤岩のS波速度については、千葉県では、基盤岩上面までの深度が深いことから、取得した位相速度曲線の最大周期8秒までのデータでは不十分であり、基盤岩については信頼性のある値は得られなかった。基盤岩の精度の良いS波速度を得るには、十分長周期の微動か励起することと、計測機が長周期のデータを記録できることが必要となる。平成15年度に市原市内陸部で実施した最大アレー半径4000mの三重三角形をずらして重ねる手法は、基盤岩のS波速度を得るための一つの手法と考えられる。

ただし、唯一解が求まるわけではないので、解の信頼性に関する考察が必須であり、例えば、GA解析における拘束条件(探索範囲)もあわせて表示するなど誤差評価を詳述する必要がある。

得られたS波速度は下総層群や上総層群中では比較的ばらつきの少ない値であるが、深部の三浦層群相当層や保田層群相当層ではばらつきが大きく信頼性が低いと考えられる。今後、分散曲線を精度良く求める探査手法の開発が期待され、原データにさかのぼって見直すことが必要となる。