2−4−3 地域における地震動特性

千葉県中央部地域の地震動の特徴を以下に述べる。ただし、地震動の地域特性に関する考察は、深部地下構造の増幅効果を反映する2〜12秒のやや長周期帯を対象としている。従って、例えば、台地上と埋め立て地における地震動の違いなど浅層地盤(軟弱地盤)の影響は考慮していない。また、三次元シミュレーションの解析結果は、震源モデルや基盤以深のモデルの誤差が含まれているので、必ずしも地盤効果(サイト効果)のみを表現しているわけではない点に注意が必要である。

まず、千葉県中央部の東京湾臨海部において、周期1秒以上の全帯域での地震動が周辺より大きく、揺れの継続時間が長い点が注目される。図49−1図49−2に、合成された水平動スナップショット(2003/9/20地震)と浅層の地質構造との関連を示す。図中の緑線は、下総層群の層厚が100mの等値線である。この線より東京湾側では下総層群が厚くなるが、この範囲で後続波により地震動が増幅されているのが確認できる(図49−1の22秒から24秒にかけて)。

図中にS波直達波と記している波群は、ほぼ震源から波が到来している。一方、震源方向からではなく、浅部堆積層(主に、下総層群、上総層群)の盆状構造を反映して、東京湾北部に向かって回りこんでくる後続波(例えば、図中の後続波A、後続波B)も存在している。さらに、嶺岡山地側から北に伝播する波群(後続波C)が確認できる。これらの波長は短く(周期1〜2秒)、伝播速度も遅い(見かけ速度:2km/s台)ことから、山地−平野の境界付近で2次的に生成された表面波であると考えられる。

以上から、千葉県地域における地震波の伝播については、地下の各堆積層の形状が複雑に影響していることが確かめられた。特に、S波直達波の後に続く地震波(S波後続波および表面波)が、東京湾北部に向かって周囲から回り込んでくる様子が見て取れ、東京湾北部を中心に地震波が増大し、かつ、揺れが長時間続く結果になると考えられる。なお、図39の実記録と合成データとの比較では、実記録のほうが湾岸地域の増幅度が大きいが、この理由は、実際は表層地盤による増幅効果が加わるために、湾岸地域の地震動増幅がより顕著に現れているものと考えられる。

図50−1に、各堆積層の基底深度コンターと合成された水平動ピーク速度値分布(2003/9/20地震)との対比を示す。(a)は下総層群基底深度、(b)は上総層群基底深度、cは三浦層群相当層基底深度、(d)は基盤上面深度のコンターを示している。下総層群基底が深い東京湾臨海域を中心として地震動が増幅されている。つまり、上総層群上面深度(下総層群の層厚)のコンター図に似た分布を示しており、基盤形状よりも上総層群や下総層群などの中間層の形状が地震動(特に、1〜3秒周期)に大きく影響を与えていると言える。

図50−2は、2003/10/15の地震についての同じ図である。振幅は異なるが、地下構造の影響は同様である。

三次元シミュレーション結果では、富津市の東京湾岸から君津市・市原市にかけての内陸部を通る帯状地域で地震動が増大しているのが確認できる。この地域は、沖積層と洪積台地の境界付近(上総層群と下総層群の境界付近)でもあり、また、上部堆積層が急傾斜している地域でもある。千葉県内陸部でも堆積層や基盤深度の急変部を反映して局所的に増幅が認められるが、その増幅は概ね2倍未満であり顕著ではない。この増幅の成因について、堆積層の速度構造が急変する付近で地震波が重なり合い地震動が増大するものと推定される。ただし、この地震波増幅効果は、観測点が十分でなく、観測結果では明瞭でない。また、震源からの放射パターンや到来方向によっても変化すると考えられる。

千葉県中央部地域の深部地盤に複数の断層や撓曲が確認されたが、やや長周期帯域の地震動に影響を与えるほど規模は大きくないとみられ、局所的に地震動が集中して揺れが強くなっている地域は顕著ではない。一方、兵庫県南部地震で甚大な被害を受けた帯状の地域(いわゆる「震災の帯」)が、盆地端部の局所地域に地震波が重なり合った結果(盆地端部効果)であると言われている。今回の調査対象地域である千葉県西部および中央部地域では、同じメカニズムで「震災の帯」を発生させるような地下構造は認められない。ただし、市原市を中心とする地域で、深部の地下構造に起因して固有周期10秒程度の地震波が増幅される傾向は顕著であり、注意が必要である。