2−3 地震データを用いた地下構造モデルの検証

関東平野(千葉県中央部地域)において、堆積層や基盤の地下構造とそれらの地震波速度を把握し、想定地震に対する強震動を予測することは千葉県の地震防災上極めて重要である。その為に、反射法地震探査、屈折法地震探査、微動アレー調査の結果から総合的に推定された地下構造モデルが、地震動の計算モデルとして現実の地下構造と十分に一致しており、計算結果と観測された地震記録が調和的であるかどうかを確認しておく必要がある。そこで、推定されている速度構造モデルから、地震データを用いた解析およびシミュレーションを行い、地下構造モデルの検証を行う。併せて、千葉県中央部地域のやや長周期帯域における地震動特性について考察する。

最初に、千葉県周辺で発生する地震の特徴についてまとめる。関東地方南部は、大陸プレートの下に南からフィリピン海プレートが潜り込み、東からは太平洋プレートが大陸・フィリピン海プレートの下へ潜り込む複雑な構造になっており、地殻内部、各プレート内部、および各プレート境界で地震が発生している。

被害が想定される地震として、1つには海溝型地震があり、この代表的な例として、1703年の元禄地震や、1923年の関東地震が挙げられる。2つ目は、千葉県直下を震源とする地震(直下地震)である。この代表例として、東京湾北部で発生した1855年安政江戸地震や、1987年千葉県東方沖地震などが挙げられる。この地震の特徴は、マグニチュードは7−0程度であり、海溝型地震に比べて規模が小さいが、震央近傍の狭い範囲では震度6強以上になり大きな被害をもたらすと想定されている。文部科学省地震調査推進本部によれば、関東地震型海溝地震の今後30年の発生確率は「ほぼ0%〜0−9%」、今後50年の発生確率は「ほぼ0%〜5%」としている。その他、駿河湾付近からその沖合を震源域として考えられている「想定東海地震」により、房総半島南端部において津波被害を受けると想定されている。

地下構造モデルの検証を行うために使用したデータは、防災科学技術研究所のK−Net、KiK−NET、および千葉県強震観測網(KK−Net)である。図1に、強震動観測記録を収集した観測点の位置を示す。表1に、気象庁による震源情報により、関東平野(千葉県地域)周辺で発生した最近の地震を示す。太文字は、一次元・三次元解析に使用した地震である。表2に、地震動シミュレーションの解析候補とした地震一覧を示す。気象庁による震源情報による2000年1月から2004年7月までに、千葉県地域(緯度 = 35−6、経度 = 140−1、半径 = 100km)で発生したM4−5以上の地震をリストアップした。図3に、解析候補とした地震の震央位置(2000年以降に千葉県周辺で発生したMj4−5以上の地震)と三次元シミュレーションの範囲を示す。収集したデータのうち、一次元・三次元シミュレーションには、後述するように、伝播特性の影響を受けにくい直下の地震で、比較的規模が大きい2つの地震(2003年10月15日、2003年9月20日の地震)を選択した。表3に、強震動観測記録を収集した観測点一覧を示す。

2003年10月l5日の地震は、千葉市直下の深さ60〜80kmの領域で定常的に発生する活動の1つであり、そのメカニズムは東西方向に圧縮軸を有するスラスト型である。圧縮軸の方向は太平洋プレートとフィリピン海プレートの相対運動方向と一致していると考えられており、太平洋プレート上面で発生する活動の一つと考えられる。気象庁による、震度情報は下記のとおりである(気象庁ホームページ)。

表2−3−1

一方、2003年9月20日の地震は、房総半島の中東部、勝浦市直下の深さ約70kmで発生した。ほぼ東西に圧縮軸を有するスラスト型であり、10月15日の地震と同様に太平洋プレート上面での発生と考えられる。なお、過去に発生した被害地震として1987年千葉県東方沖地震(Mj6−7)が、同じ領域の深度58kmで発生している。気象庁による、震度情報は下記のとおりである(気象庁ホームページ)。

表2−3−2

表4−1表4−2に、関東平野(千葉県地域)の一次元速度構造モデルとして、一次元シミュレーションに用いた各層の物性値を示す。平成15年千葉県地下構造調査で与えられた物性値(表4−1)を基礎モデルとして使用している。ここで、S波速度については、微動アレーの結果と矛盾が無いことを確認しながら、S波反射法探査および周辺のPS検層結果を基に作成されたP/S波速度関係式に基づく代表値を使用した。表4−2には、一次元解析により、基礎モデルを修正した最終モデル結果について示している。

強震観測データを用いて、今回作成した三次元地下構造モデルを検証するために、一次元解析および三次元解析を実施した。図12に、地下構造モデルの検証の流れを示す。まず、調査地域の地震動の特性を把握する目的で、遠地で観測された比較的大きな地震に対するスペクトル解析を実施した。