(2)2003/9/20の地震(Mj5−8)による検証

2003年9月20日の地震は、房総半島の中東部、勝浦市の直下の深さ約70kmで発生している。ほぼ東西方向に圧縮軸を有するスラスト型であり、10月15日の地震と同様に太平洋プレート上面の地震活動と考えられる。なお、過去に発生した被害地震として1987年千葉県東方沖地震(Mj6−7)が、同じ領域のやや浅部で発生している。

この地震は、防災科学技術研究所(K−net、KiK−net)、千葉県の強震観測網の多数の観測点で波形記録が得られている。2003/10/15地震と同じ計12点の強震観測点を選んで、これらの観測波形を中心に検証を行った。

モデルにより合成された波形・スペクトルの比較結果を、図40−1に示す。いずれも、観測結果を黒色、合成結果を青色で示している。N−S、E−W、U−D成分を、1−20秒帯域のフィルター後速度波形で比較していて、右端の数値(黒、青)は、観測および合成波形のピーク値(kine)を表す。図40−2では、Transverse、Radial、Vertical成分に回転したものを示す。

図41−1図41−2図41−3には、モデリングによる観測波形と合成波形との比較を、計算領域内の観測点ごとに示したものである。図42−1図42−2図42−3は、モデリングによるフーリエスペクトルの比較を観測点ごとに示した。振幅スペクトルは、S波主要動からの40秒間について計算し、移動平均によるスペクトル平滑化を行っていない。図43には、地震発生後20秒から28秒までの1秒ごとの合成された水平動スナップショット、図44には、合成された各成分ピーク速度値分布を示す。対象地域の堆積平野内で堆積層表面波(盆地生成表面波)が発達し、千葉県中央部に集まっている様子が確かめられた。図45には、観測データと合成記録による水平動ピーク速度分布の比較を示す。上図は、1−3秒帯域フィルター後であり、下図は、3−15秒帯域フィルター後の結果である。

各成分の波形、フーリエスペクトル、および、ピーク速度値分布の比較・検証を行った結果、それぞれ周期10秒までの観測結果とシミュレーション結果がよい一致を示した。また、速度波形の比較では、震源時間関数の設定に問題が残っているものの、P波、S波の初動波形の並びがよく一致した。今回の地震で最大振幅を与えるS波主要動の振幅の比較では、一部の観測点を除き、おおむね、誤差範囲(50%から200%)の差に収まっている。波形については、初動部分は比較的合っている。これに対して、初動部以降の後続波については一致があまりよくない。これは、観測点により表面波の励起の仕方が大きく異なっていることが、シミュレーションの計算に反映されていないためであると考えられる。その理由として、速度構造モデル、地盤の三次元的効果、震源パラメータの精度、Q値の精度など様々な要因が考えられる。なお、基盤以深の構造についてもフィリピン海プレートの形状を考慮して、速度構造を空間的に変化させたことで、より一致するようになっている。