S波速度の微修正を行った結果、堆積層の卓越周期を反映した理論ピークと、一部不明瞭であるが観測記録より求めた増幅スペクトルのピーク周期のフィッティングが改善した。なお、若干ピーク周波数がずれている観測点も含まれるが、近隣の観測点で系統的なずれはなく、一次元モデルを仮定する本手法の解析誤差であると考えた。上記の修正では、上総層群の平均S波速度は、0−7〜0−95km/sとばらついていて、中央値0−85km/sから±10%位の空間変動が存在する(付録1)。県中央部の市原市、千葉市で若干速度が大きく、北部の成田市において若干速度が小さくなっている。つまり、上総層群の上面深度が浅くなるほど、上総層群の平均S波速度が遅くなる傾向を示している。なお、得られた上総層群のS波速度は、平成15年度千葉県地下構造調査により求められたP波/S波速度関係式(回帰式)のばらつきの範囲内であり、既存のデータと矛盾しない。
以上をまとめると、千葉県地域で発生するマグニチュード5クラス、震源の深さ70km程度の地震波形には大振幅の長周期後続波が明瞭に確認できないが、振幅スペクトルから千葉県中央部直下の基盤構造の固有周期(6秒から11秒)に対応したピークが確認でき、堆積層の地下構造の検証として用いることができた。地下構造モデルは、下総層群、上総層群、三浦層群相当層でS波速度モデルの微調整(+−10%程度)を行うことにより収集した地震データをより適切に合わせることができた。千葉県中央部では、上総層群の平均S波速度が全体よりも速くなること、また、千葉県北部では平均S波速度が遅くなることが確かめられた。今回作成されたS波速度モデルと隣接する微動アレー観測点におけるS波速度モデルも、各層の速度対応が比較的良好であった。また、このチューニングによるS波速度の修正量は、既存のP波/S波速度関係式のばらつきの範囲内であり、既存の関係式と矛盾しなかった。
なお、三次元シミュレーションに用いた上総層群のS波速度(代表値)は、京葉コンビナート地帯の石油タンクにおける長周期地震動の挙動が社会的に重要になることから、市原市周辺での上総層群のS波速度である0−9km/s(基本モデル)を一元的に与えた。