2−3−1 地震データのスペクトル解析

実際に観測された、2003/10/15および2003/9/20の地震波形およびスペクトルについて、以下に示す。使用した地震波形データは、防災科学技術研究所のK−net、KiK−net、および、千葉県強震観測網による。図13−1図13−2図14−1図14−2には、オリジナル加速度波形について、地震、成分ごとに分けて表示している。図15−1図15−2図16−1図16−2には、1−20秒帯域フィルターを施した後の速度波形を示す。図17図18には、1−20秒帯域フィルター後の速度波形を、12地点の3成分表示で現している。図19−1図19−2図19−3図20−1図20−2図20−3には、速度波形のフーリエスペクトルを示す。図21−1図21−2図22−1図22−2には、1−20秒帯域フィルター後の水平動ピーク速度値分布と、5−20秒帯域フィルター後の水平動ピーク速度値分布を示す。5−20秒帯域フィルターは、より深部の影響を見るために適用したものである。千葉県中央部地域における卓越周期は、数秒程度またはそれ以上であることから、これらの分布図を比較することで地盤の増幅効果の影響を読み取ることができる。実際には、次節に述べる一次元解析(線型地盤応答解析)の際に、地震記録から求められるスペクトルと地下構造モデルから計算されるスペクトル等の比較を行っている。

次に、当地域の地震動の特性を把握する目的で、遠地で観測された比較的大きな地震に対するスペクトル解析を実施した。各観測点において、S波主要動を含むフーリエスペクトルを計算し、ピーク周期の空間変動について調べた。図23−1図23−2には、関東平野周辺で発生した最近の18地震(表1)のフーリエスペクトルを示した。観測点については5点を取り上げた。これらの観測点は、基盤が深い点(CHB030木更津市役所)、基盤が比較的浅い点(CHBH13成田、CHB019鋸南、CHB023館山)、基盤がきわめて浅いと推定される点(CHBH14銚子)に分類できる。ただし、鋸南と館山については、保田層群相当層の層厚がよくわからないため、その下位の基盤深度については信頼できるデータがない。図24に、関東平野周辺で発生した最近の18地震(表1)のフーリエスペクトルを各地点で重ねた結果を示す。各点の地盤の固有周期に対応するピークが見られるが、震源および伝播過程において生成・増幅されたと考えられる強いピークも見られる。特に、伊豆諸島で発生した地震は、地質構造に関係なくすべての観測点において周期7秒および10秒程度に強い振幅を持っている。

図25−1は、2000年7月30日三宅島の地震(Mj6−4)の観測波形を、南北に沿った観測点で並べたものである。図25−2には、それらの速度フーリエスペクトル(S波主要動を含む80秒間)を示した。これらに見られる周期10秒程度の表面波フェーズについては、振幅は変化するがそのピーク周期はほとんど変化しない。さらに、震源メカニズムをみると破壊継続時間が6秒であること(EIC地震学ノート、インターネットより)、および、前図でマグニチュード5クラスの三宅島地震でも10秒周期が励起されていることから、相模湾を伝播する過程で増幅された周期10秒の表面波が、そのピーク周期を保ったまま千葉県全体を通過していると推定される。図25−3には、2000年7月30日三宅島の地震(Mj6−4)に対して、CHB025千倉観測点との速度スペクトル比を示したものである。周期数秒以上のやや長周期帯において、最大3、4倍程度の増幅が認められる。

三宅島の地震など遠方の地震波形に対するスペクトル解析では、直下の地盤増幅以外の振幅が混入する可能性があり、これらを地盤の固有周期によると誤って解釈しないよう注意が必要である。また、「東海地震」など千葉県の南方から地震波が入射する想定地震に対して強震動予測を考える場合には、三宅島の地震のスペクトル解析の結果から、千葉県南部から相模湾にかけての領域のモデル化も併せて考える必要がある。