(3)P波速度より推定する方法

VSP探査で求められたVpとVsの結果より、一定の速度範囲においては経験式を当てはめて考えることができる。下総深層地殻活動観測井での解析結果では、P波速度1−65〜3−0km/sの範囲(S波速度0−41〜1−62km/s)で

Vs = 0−90×Vp − 1−08 (km/s)

という近似式が求められている(山水ほか,1999)。この式はある程度速い速度の堆積層中の関係式であり、地表付近の低速度層(S波速度およそ0−4km/s以下)および地震基盤より深部については、成り立たない。地表付近については、浅層ボーリングのPS検層による直接的方法(K−Netの土質データ、など)、および、N値から推定する方法などが一般的であり、今回は、K−Netの土質データを参考にした。付録1に、K−Netの土質データ(防災科学技術研究所ホームページ)を今回の速度モデルと対応して示している。

地層の密度は、坑井の検層によって調べるのが最も一般的である。P波速度(Vp)から密度(Rhob)を算出する一般的な経験式として、ガードナーの法則(Gardner et−al, 1974)を利用する方法もある。これは、

Rhob = A Vp0−25 (Aは定数)

の形で表され、密度はP波速度の4分の1乗に比例することを意味する。千葉県内および周辺の深層坑井のうち、基盤まで掘り込んでいる下総深層地殻活動観測井・江東深層地殻活動観測井・成田地殻活動観測井の3坑について解析した結果、密度はP波速度のほぼ0−35乗に比例して次の近似式で表された。

Rhob = 1−5 Vp0−35 (Rhob の単位は g/cm3、Vpの単位はkm/s)

ただし、上記3坑井の測定結果では、P波速度と密度の関係はかなりばらついており、上記関係式による密度の算出はあまり精度がない(平成15年度千葉県地下構造調査)。このばらつきは、地質(岩質)の差を反映したものと考えられ、比較的似た地質状況であれば目安として使うことができる。精度の高い評価には坑井データを参照することが不可欠であるが、シミュレーションを行ううえでは、上記近似式で十分である。

Q値については、地震波の減衰に関する重要な物性値であるにも関わらず、探査等で精度よく求める方法がない。これまでいくつかの手法が試されており、VSPの初動振幅を解析する手法は試されたことがあるが、地震波の周波数帯まで精度があるとは言い難い。逆に、シミュレーションを実施しながら、適切な値を探るのが妥当であると考えられる。なお、通常シミュレーションに用いるQ値は、S波のQ値(Qs)である。山水ほか(1983)は、下総深層地殻活動観測井のS波大砲による速度測定の振幅情報を用いて、Q値を算出している。これは、SH波発生機を用いて 、3−5〜20Hzの周波数領域で、

堆積層中 Qs = 21±7(深度 0−0〜0−351km)

51±6(深度 0−351〜0−848km)

48±11(深度 0−848〜1−502km)

基盤岩中 Qs > 150

の値を得ている。

山中ほか(2003)は、関東平野の中小地震の強震記録から、伝達関数の逆解析により堆積層中のQ値について、0−1〜1Hzの周波数領域で、

Qs = Vs/42 (Vsの単位は m/s)

という関係式を求めている。これは、従来用いられている堆積層における簡易式

Qs = Vs/15 (Vsの単位は m/s)

より小さい。なお、平成12年度千葉県の総合解析で、下総深層地殻活動観測井の観測記録を解析して得られた結果では、堆積層中でQs = 10〜20程度の値を用いた。

Q値は、地震波の周波数に依存するという考え方もあり、その場合は、上記の値にとらわれない検討が必要である。既往文献により求められている値の例は次のとおりである(中央防災会議 首都直下地震対策専門調査会 ホームページ 2004)。

・Aki(1980) 南関東地域Q=170f0−6、北関東地域Q=120f0−8

・佐藤(1984) 世界各地1Hz 付近で100程度、fn のnは0−5〜0−9、関東地方n=0−7

・木下(1993) 関東地域Q=100f0−7

・Kinoshita(1994) 南関東地域Q=130f0−7

・加藤他(1998) 東北太平洋岸Q=80f1−0

・Yoshimoto et al(1993) 関東地方Q=83f0−73

上記の文献は、地殻上部も含んだ結果であり、堆積層の速度層(0−5km/s<Vs<3−0km/s )に対するQ値の解析例が少ない。一般的には、上記の場合よりは小さいと考えられる。ここでは、平均的なものとして

Qs = Vs/20 (Vsの単位は m/s)

を基本(初期)モデルとして採用し、一次元解析において試行錯誤する。また、表層のQ値については、上式にとらわれることなく試行錯誤することとする。なお、周波数依存性については、後節(一次元解析)で考察を加えることとする。

以上の各項目を整理したものを表4−1に示す。表中には、それぞれの層厚・P波速度・S波速度・密度・Q値のおおまかな分布範囲もしくは推定値を示し、P波速度・S波速度は、各層を均質として扱う場合の代表的値を大文字で示した。この表は、これまでの地下構造調査成果をまとめたものであり、地質境界にほぼ対応するB〜E面の4つの深度面で表現した。作成した地下構造モデルは、基礎モデルとして、一次元解析を行う上での入力値とした。これらは、一次元シミュレーション等の検討を通して、場合により修正を加えることとする。