(6)レイトレーシングによる地下構造の推定

レイトレーシングによる方法では、岩崎(1988)による波線追跡プログラムを用いて、何回か試行錯誤を繰り返し、モデリングと実記録の走時合わせを行なった。

入力モデルの作成・修正は、およそ以下の手順で行った。

1)先新第三系基盤の深度・速度

基盤からの反射波が捉えられている測線中央部(V2)およびダイナマイト屈折記録中に反射波が確認された測線北東端(D1)付近で、基盤の深度を固定した。基盤の速度は、初期値を5km/sとして、修正の際は全体の速度を変更した。

2)保田層群相当層の深度・速度

反射法深度断面図(図2−2−15)を参照しながら反射の明瞭な区間(V1−V2間、V3周辺)の深度を固定した。また、保田層群相当層の速度は、反射法速度解析の結果から中央部(V2)で、3.5km/sを初期値として与えたが、後の走時合わせの過程でやや速めの速度に落ち着いた。

3)三浦層群相当層の深度・速度

第2層に対応する屈折波の見かけ速度から、2.2km/s程度に見える屈折波を三浦層群上面の屈折波と対比した。深度のはっきりしている富津地殻活動観測井で800mとなるように固定し、他の区間は反射法の断面図上で追跡される反射面を初期値とした(図3−2参照)。

4)レイトレーシングによる走時合わせ

上記の固定した深度を変えずに、反射法の解釈結果とレイトレーシングのモデルがよく一致するように、他の区間の深度・速度を修正していった。モデルの計算走時と観測値の走時のずれがもっとも少ないと思われるものを最終モデルとした。

先第三系基盤および保田層群相当層上面の構造については、この最終モデルによる構造と、反射法断面図から解釈される構造が矛盾しないように決めることができた。上総層群の上面については、反射法断面図の構造は明瞭であるが、構造を固定して速度のみを修正するだけでは、観測走時と計算走時のずれを説明できないため、構造自体が異なるものとして修正した。

 

最終的なモデルは図2−3−6−1の下図に示すようなモデルとなった。各発震点直下で速度構造を与え、速度境界面は発震点間で直線内挿している。V2とV3の発震点の中間に、基盤構造の最深部がある、V3の基盤屈折波走時がD2と比べてかなり遅いことをモデル上で説明するためである。表層構造は、P波反射法地震探査で使用した速度(0.5km/s)と求まった深度を平滑化したものを入力している。(高々20m程度のため、この図では識別できない。)

上総層群に相当する第1層として、深度0kmで1.7km/s、深度0.9〜1.1kmの基底で2.0km/sとし、この間の速度は深度に比例して増加するものとした。

上総層群に相当する第2層の速度は、上面で2.3〜2.4km/s、保田層群相当層直上で2.4〜2.8km/sとなった。

保田層群相当層の速度は、3.6〜4.2km/sとなった。

基盤岩の速度は、4.9km/sが最適であった。これはD1とD2の見かけ速度の調和平均で約4.9km/sとなり、またタイムターム法の結果からも5km/s前後の速度が得られていることと矛盾しない。

レイトレーシングと全発震点での実データの初動読み取り値の比較を図2−3−6−1に示す。この図は、10受振点ごとの初動読み取り値・レイトレーシングの結果求まった走時のグラフ、モデル構造図とレイトレーシングのパス、最下段にモデルの速度構造を並べて表示したものである。また、基盤からの屈折波が確認された発震点D1・V3・D2の屈折波強調処理後の記録と、10受振点ごとの初動読み取り値 ・レイトレーシングの結果求まった走時のグラフ、最下段にレイトレーシングのパスを並べて表示したものを図2−3−6−2図2−3−6−3図2−3−6−4に示した。