4 地下構造調査手法についての提言と課題

本年度までの3年間、千葉県で実施した調査の主な流れ、そしてこれから実施すべき作業を図4−1に示した。

この中で、三次元速度構造モデルの作成作業は、各種調査結果を統合的に解釈する必要があり、図4−2のように各種要素が複雑に関連している。

まず、地域全体の概要(特に基盤深度)を捉えることが重要であり、これが調査計画(仕様)の立案に係わってくる。

次いでマクロな調査として、屈折法地震探査が考えられる。ダイナマイトを震源とする調査は、都市部では発震点の選点に大きな制約がある。バイブロサイスを震源とする屈折法地震探査は、反射法と組み合わせることが費用および期間の削減につながると考えられる。

微動アレー調査は、注意して用いれば、かなりの精度でS波速度、基盤深度が求まることが分かってきた。さらに、屈折法や反射法の地震探査と組み合わせて用いると、より有効である。図4−3に千葉県以外の地域で微動アレー調査を適用する場合、基本的な調査のフローの提案を示す。今後の調査においては、この調査の流れに沿った観測、解析を実施することによって微動アレー調査による地下構造調査を行うことができると考えられる。また、適用する地域によっては設定条件など異なる項目もあり、実状に即した方法で行うことが必要である。

地震動のシミュレーションでは、表層低速度層がある場合、短周期の部分に影響があることが予測される。こういった影響を調べるため、PS検層、あるいは浅層ボーリングのデータを収集しN値からS波速度を推定することが必要である。また、新たにPS検層や浅層部のS波反射法地震探査を実施することが必要である。

今年度実施したのは、一次元のシミュレーションであるが、長周期の表面波を多く含む浅発地震の場合等で、より正確な評価・振動予測のためには、三次元のシミュレーションが望まれる。

今後の課題としては、次のものがあげられる。

・堆積盆地の地震動評価のためには、盆地の縁辺部の増幅効果を正しく評価する必要がある。今回の千葉県西部地域の調査範囲では、基盤岩が地上に露出しておらず、堆積盆地としては閉じていない。今後、周辺地域の自治体と連携してデータを蓄積していく必要がある。

・基盤のP波速度について、坑井で測定された検層・VSPによる垂直方向の速度と、屈折法で求められた水平方向速度の間に有意な差が認められた。この原因について、基盤岩の異方性の可能性を含め、検討する必要がある。

・基盤のS波速度を推定する方法は、今のところ坑井のVSP以外に確実なものはない。S波の屈折法については、大型S波震源の検討、P波震源によるS波変換波の発生機構の解明などの課題が残されている。また、微動アレー調査の手法についてもさらなる検討が必要である。

・地震動のシミュレーションの結果には、堆積層のQ値が大きく関ってくる。Q値の推定には、VSP データの解析あるいはコーダ波の解析などの方法があるが、それも確実とは言えない。今後、より有効な手法を開発する必要がある。下総地殻活動観測井のように、坑底と地表で観測された波形を用いる手法もその一つとしてあげられる。