3−5−5 モデルに対する評価と問題点

これら作成したモデルについて、どの程度の誤差が許容されうるかを評価するため、浦安観測点(URC)の4層構造モデルを例として、速度・深度等が変化した場合の周波数ごとの増幅率(基盤岩上面から地表まで)の違いを調べた。結果を図3−49−1,図3−49−2に示す。ここでは、Q値として10を採用して計算を行った。

図3−48−1の浦安観測点での4層モデルの増幅率は、図3−49では全て赤の実践で示されている。ここでは4つの例を挙げているが、全て同一である。

これに対して、深度構造はそのままで第2層の速度を10%少なく、または10%多く与えた場合の増幅率を図3−49−1の上図に示す。速度が変化することにより増幅率のピークの周波数およびその値が若干変化するが、この程度では大きな違いとは言いにくい。

同様に基盤の速度を10%少なく、または10%多く与えた場合が、図3−49−1の下図である。低い周波数(0.1Hz付近)で若干絶対値の差が見られるが、ほとんど違いはないといって良いだろう。ただし、実際には基盤の速度が場所によって異なれば、基盤への入力地震波形そのものが変わるはずであり、これほど単純ではないかもしれない。

表層部に低速度層があるとした場合の増幅率を図3−49−2の上図に示す。深部の速度変化に比べて、この部分の差はかなり影響が大きく、周波数およそ0.5Hz以上の部分で有意な差が見られる。さらにこの影響は、表層の低速度層部分を平均速度を同じにして1層にした場合と2層に分けた場合とで、また違いが現れてくる。1Hzより高い周波数については、表層低速度層の寄与がかなり大きいと言ってよいだろう。

次に、深度について、各層境界の深度をそれぞれ10%浅く、あるいは深くした場合の増幅率が図3−49−2の下図である。モデルの深度に応じて、ピークの周波数が若干変動するが、全体的な増幅率の値には大きな違いが見られない。これは、微動アレー調査で、基盤深度が約10%の誤差を持てば、共振周波数の見積りに10%の誤差が生じるということを示す。

前節での比較の結果は、作成したS波速度モデルが、観測された波形の説明となっていることを示している。また、 地震波形のシミュレーションで精密な検証を行うことにより、Q値の見積りに使える可能性が見いだされた。

S波速度構造については、いくつかのシミュレーションの結果から、4層モデルでかなりよい結果を得ることができ、これまでの地下構造調査の情報から得られる層数をこれ以上増やしても精度は上がらないことが分かった。

ほぼ全観測点に共通する傾向としては、計算されたシミュレーション波形の振幅が、観測された波形の振幅よりやや小さくなっていることが指摘できる。この傾向は、東京湾沿いの埋立地に位置するとされる、浦安・行徳・船橋の観測点で顕著である。

東京湾沿いの埋立地の観測点では、1Hz付近の振幅を説明するためには、表層低速度層の情報が不可欠である。具体的には、対象深度約100mまで、S波速度150m/s程度の部分に相当する。

この低速度層の情報を得るためには、PS検層、S波浅層反射法を行うことが有効な手段である。また、ボーリングデータのN値からS波速度を推定することである程度の指標を得ることができる。この部分の情報は、半径200m〜2000mの微動アレー調査では得られていないが、極小アレーによって求められることも分かった。

白井・沼南・我孫子などで強震動観測点でのシミュレーション結果が観測結果とあまり一致しない例も見られた。これらの結果は、モデルの層数を増やす、浅層部に低速度層を追加する、等の手法では改善されない。入射波の到来方向の問題、基盤からの入力波形そのものが場所によって異なる可能性、などを検討する必要がある。