3−5−3 下総地殻活動観測井における一次元シミュレーション

まず、坑底観測波形と地表観測波形の周波数成分を比較したものが図3−45である。この解析のみは、精度をあげるため水平2成分を用いた解析を行っている。速度波形の周波数成分ごとに振幅の比をプロットしたものが下の図である。また、同一6層構造でQ値を50,20および10としたときの、坑底から地表への増幅率を計算したものを下の図に加えた。実際の振幅比とモデルによる理論増幅率の形状は、0.1Hzから1.5Hzぐらいの間で良く一致していると見られる。この例では、0.15Hz付近ではQ値を10としたときの増幅率に近いが、1Hz付近ではQ値を20とするのが適当なようである。

次に、坑底と地表の観測波形の整合性であるが、ここでは精度をあげるため、VSPを主体として反射法地震探査、微動アレー調査から求めた6層のS波速度モデルを用いた。

シミュレーションによる波形の比較を図3−46に示す。図の上段が地表での波形、中段が解放基盤上の波形、下段が坑底での波形である。

上段の地表波形は、観測波形に1Hzのローパスフィルターを施したもの、坑底波形からQ=50およびQ=10として6層モデルで計算した地表波形の比較である。S波初動部に相当する波形は、Q=50でもQ=10でも良く似ているが、Q=50とすると、図中で12秒ぐらいからの後続波の波形がかなり強く現れる。

中段はQ=50,Q=20およびQ=10のときの解放基盤であるが、Q=10の場合が比較的初動部にエネルギーが集中する傾向が見られる。

下段波、Q=10とした場合に、地表観測波形から坑底波形を逆算したものであり、このシミュレーションが正しいことの検証にもなっている。

以上から、Q値は10〜20程度の値がふさわしいであろうことが推察されるが、以下のシミュレーションでは波形が良く一致するQ=10を採用して行った。

図3−47は、解放基盤波形を入力とした下総観測井でのシミュレーション結果である。最上部が地表観測波形に1Hzのローパスフィルターを施したもの、その下が地表での計算波形である。下段左は加速度の振幅スペクトルを示す。地上観測波形のスペクトルは、ローパスフィルター前のものである。下段左は用いたS波速度モデルである。

ここでは、他の観測点との整合性を取るため、4層モデルを用いている。ただし、精度の評価のため、4層モデルにS波の速度を微動アレー調査のものではなく、P波速度から換算式でS波速度に直したものを加えた。さらに、微動単独で求めたS波速度構造(基盤深度が異なる)も加えた。

結果的には、こられのモデルのうち、どれが正しいかを判断するほどの違いは見られなかった。従って、ここでの議論は4層モデルで十分と考えられる。