3−3 調査手法の比較と評価

過去3年間に実施してきた調査の実施内容と成果をまとめたものを表3−5に示す。

当地域の中心には、防災科学技術研究所の下総地殻活動観測井があり、この観測井およびその周辺で実施された各種物理探査の結果求まったP波速度、S波速度を図3−32に示す。

速度検層記録はP波速度しか測定していない。垂直方向の分解能が高いが、坑井の極近傍の情報であるという点で注意が必要である。また、使っている周波数帯域が高いため、反射法やVSPと直接的に比べられない場合がある。

図3−33に、検層記録から作成した合成地震記録の例を示す。これは、「平成9年度千葉県活断層調査成果報告書」に収めたものである。下総地殻活動観測井と江東地殻活動観測井の検層記録・柱状図・合成地震記録に、先新第三系基盤岩の上面・三浦層群上面の地層境界が示されている。合成地震記録は、速度検層・密度検層の値から計算されたものに、反射法地震探査の周波数帯域のバンドパスフィルターを施したものである。この図からは、合成地震記録上にあらわれる変化は、基盤岩上面や三浦層群上面などの物性変化に対応していることが読み取れるが、合成地震記録上には、さらに細かい物性変化もあらわれている。

次に直接的な測定としてVSPがあげられる。基盤の上位でセメンチングの不良によりデータが得られていないが、基盤の内部についても速度が得られている。P波震源を用いているため、P波速度については信頼性が高いが、S波速度は変換S波を解析しているためやや信頼性が劣る。分解能は、測定深度間隔に依存するが、数10〜100m程度である。今回用いた下総観測井の例では、VSPのP波速度と検層記録のP波速度は誤差の範囲内で一致していると見なせる。深度1200m以深の堆積層中では、ほとんど有意な差はなく、先新第三系基盤内でもほぼ5.0〜5.2km/sの範囲に収まっている。

P波反射法地震探査は、VSPとほぼ同じ周波数帯域の弾性波を用いており、基盤岩上面までの速度が捉えられている。分解能は、VSPよりは粗く、数100m程度である。

S波反射法地震探査は、P波地震探査ほど一般的ではない。ひとつには震源の問題があり、処理についてもP波地震探査と比較して難点がある。探査深度は、3年間の調査で、およそ最大500m程度までと評価される。地表直下や周辺のノイズ状況によっては、さらに深部までの探査が可能である。

P波屈折法地震探査では、よりマクロな速度の把握が可能であり、先新第三系基盤の速度が得られている。千葉県西部地域においては、下総地殻活動観測井のVSPによる基盤のP波速度(約5.2km/s)と、地下構造調査の屈折法地震探査で得られたP波速度(約5.7km/s)が有意に異なっている。これは三波川帯の結晶片岩の異方性のため、波の伝播方向によって速度が異なっている可能性がある。

この地域の既存のダイナマイト屈折法地震探査の結果も5.8〜5.9km/sであり、屈折法相互ではほぼ同じ値が得られている。

P波バイブロサイスを震源とするS波屈折法地震探査も試みられ、可能性としてはP−SV変換波による基盤S波速度が見積もられているが、今後のデータの追加検証が必要な段階にある。

微動アレー調査については、人工震源の必要がないため市街地でも調査が可能であり、費用も安価であるという長所がある。一方、取得されたデータデータの利用にあたっては、微動単独の条件から最適な解を求めることは不可能で、近隣の坑井データ・地震探査データとの突き合わせが不可欠である。充分な吟味がなされれば、これらデータが欠けている部分の補間に用いることも妥当と考えられる。

図3−34には、反射法から求められた基盤深度と、微動アレーのフリー解析から求まった基盤深度のクロスプロットを示した。図中の印は、

赤印:反射法測線と微動観測点(中心)の距離が1000m未満のもの、

緑印:反射法測線と微動観測点(中心)の距離が1000m以上3000m未満のもの、

赤印:反射法測線と微動観測点(中心)の距離が3000m以上のもの、

で分類した。赤印については、反射法とブーゲー異常値を用いて求めた基盤深度(図3−39−1参照)と微動アレーの深度とのクロスプロットを行っている。

反射法の基盤深度は、下総および流山の坑井データをコントロールポイントとしており、信頼性が高い。反射法深度を正しいとした場合の微動アレー深度の誤差は、次のようになった。

オフセット距離  誤差最大値  誤差最大割合  誤差標準偏差

1000m 未満     264m      13%       123.2m

3000m 未満     264m      13%       107.8m

全オフセット     373m      16%       133.0m

この結果から、オフセット距離が3000m未満であれば、いくつかの例外を除いて微動アレーによる基盤深度は、10%程度の誤差で求まるということが言える。この値が大きいか小さいかは、シミュレーションの結果にどれくらい影響するかという評価に依存する。微動アレーは、10個の候補解の中から最適解を選ぶ過程で、他の情報も考慮に入れるため、純粋に微動アレーだけの結果ではないことも注意が必要である。

速度については、反射法/屈折法はP波速度、微動アレーはS波速度を求めるため、直接の比較はできないが、図3−35−2のような対応関係にある。基盤を含めて4層に切り直した深度区間それぞれでの反射法P波速度、微動アレーS波速度をそれぞれが、4つのグループに別れて表示されている。図中の直線は、下総観測井のVSPから求めた近似式(図3−35−1参照)である。上図は、下図の拡大であるが、近似式に対して、−20%から+20%の誤差の直線が加えてある。

速度の遅い表層から、第1層・第2層に相当するグループは、P波速度・S波速度ともに良く比較的集中しており、この層での相対的な差(直線からのずれ)は最大15%程度である。しかし、ほぼ三浦層群に相当する第3層では、30%程度のずれが見られる。この区間では、反射法の重合速度・解析された微動アレーの速度がともに信頼性が低くなっていると考えられる。速度の速い最下層(基盤)に対応するグループは、P波速度は測線ごとの屈折波速度、微動アレーのS波速度はかなり探索範囲を限定した値を与えているため、この表示にはあまり意味はない。

以上の評価を簡単にまとめると、以下のようになる。

表3−3−1−1

総括的な評価としては、大型バイブロサイスによるP波反射法地震探査が先新第三系基盤上面までの構造を捉えるための手法として有効であることが確認された。都市部の民家密集地での発震が難しいという弱点はあるが、測線をうまく設定することにより、基盤上面までの構造を求めることが可能であることが分かった。

反射法によって基盤岩の速度を求めることは難しいが、反射法の機材を用いて、バイブロサイス震源によるP波屈折法を行うことにより、基盤岩の速度を求められることが分かった。単独で屈折法を実施すると多大な受振器展開のための費用がかかるが、屈折法を反射法と同時に実施することによる費用の削減にもつながっている。

既存のVSP, 速度検層等の直接的データがあれば望ましいが、新たに取得することは費用の点から難しい。

S波反射法・屈折法、微動アレー調査については、確実な成果が期待できないため、まだ研究段階にあると言える。補助的・補完的に使うべきであろう。