(3)残差について

・フリー解析10個の候補解のうち、当初、位相速度曲線との残差(観測値−計算値)が最小となる候補解を選び、これを最適解とした。1地点単独の調査であるならばこの決め方でもやむを得ないが、調査地点数が多くなれば、調査地域の地質などと整合性のとれた結果が要求される。調査地域の全体を眺め、再度、比較・検討を行い、各層の深度、S波速度および周囲の結果等を考慮し、計26地点の結果について10個の候補解の中から最適解を1個選び出した。

・フリー解析の最終結果については、「残差最小である解が必ずしも最適な解ではないことがあり得る」としたが、この理由として「隣接する調査地点あるいは近傍の複数のアレー調査の解との差異が、地質学的な説明を極めて難しくする場合」があげられる。「最適解」でない解を「解」とする判断基準は単純ではない。しかし、一つの試みとして、位相速度曲線図において周波数別に(観測値)−(計算値)を計算し、問題になっている深さを反映していると推定される周波数帯の位相速度の(観測値)−(計算値)を定量的に評価することである。

・現在の微動アレー調査におけるアレー配置計画は、「プロファイル(測線)方式」ではなく「ポイント(1点)方式」であり、「残差最小である解が必ずしも最適な解ではないことがあり得る」などのリスクを完全に避けることは難しい。「プロファイル方式」であれば、隣接するアレーの解と相互参照が可能であり、隣接するアレーの解が一種の拘束条件として作用することとなり、上記のようなリスクは起こり難い。反射法地震探査は「プロファイル(測線)方式」で、多数の地震計を設置し観測を行う方法であり、この良い例となる。

・アレー配置が「ポイント方式」の場合、解析では他の解を参照することなく、すなわち何の拘束条件もなく、個々のアレーごとに残差最小方式とするのは「物理学」の理に適っている。ただし、表面波の分散性を考えると、いわゆる残差の中味、すなわち「観測(推定)位相速度−計算(モデル)位相速度(o − c =δc(f)、fは周波数)」は、いろいろな周波数で異なる値をとる「周波数依存性」がある。今回、逆解析に使用しているアルゴリズムfGAでは、残差δc(f)の1次ノルムで解を評価する系統的なミスフィットはできるだけ避けるように工夫されているが、残差の周波数依存性を評価するロジックはもっていない。したがって、残差最小の解が得られても、周波数別にみると残差は、

@周波数の低いところで相対的に大きいかもしれない、あるいは、

A周波数の高いところで相対的に大きいかもしれない。

解の誤差は、@の場合比較的深いところで大きく、Aの場合比較的浅いところで大きくなる。推定された解にこのようなリスクを伴うことは避けられない。現在、このリスクを一挙に解決するアルゴリズムは見当たらない。

・試錐データによる地下構造解析は、いわゆる「ポイント方式」である。「試錐地点が互いに離れているときの地下構造をどうつなぐか」という問題の難しさと同等の難しさを微動アレーに負わせるとすれば、この調査法の利点を生かしたことにはならない。せめて「プロファイル方式」にできるだけ近づけたアレー配置計画が望まれる。「プロファイル方式」は、地下構造調査に物理探査法を適用する場合の基本だからである。

・「残差最小である解が必ずしも最適な解ではないことがあり得る」ことの意味の中で、この必ずしも最適解でないものについては、数値計算には必ずしも組み込めない「遠い隣りの解の拘束条件」を、バックグラウンドとしての地質条件あるいは広域的な重力異常データで補いあるいは参照し、これらと調和するように解を求め直すことである。また、必ずしも残差最小の解でなくとも「視覚」による判断で、計算された分散が観測された分散と他の最適解の得られているのと同程度に良い一致をしていれば、求め直した解を良しとすべきである。