(4)地下構造調査における微動アレー調査手法のまとめ

@観測に関して

・「宮腰・他、1996」文献を参考にし、可探深度1/5程度を最大半径とするアレーにより調査を実施したが、長周期成分(低周波数領域)の適切なデータを捉えることができなかった。

・最大アレー半径2,000mの追加観測を実施し、長周期成分の位相速度を求めた。最大アレー半径3,000mによる分散曲線は相関の低い結果であった。これはデータが空間的定常性を十分満たしていないことによると考え、解析データとしては不適切であると判断した。

・千葉県西部・北西部地域を対象とした地下構造(深度100〜3,000m程度)の推定には、SPAC法(空間自己相関法;距離を一定とし、周波数を変数とした空間自己相関係数から直接、分散曲線を求める方法)を採用し、アレーサイズを複数組み合わせる(最大アレー半径2,000m、600mおよび200m)円形アレー(二重正三角形)の観測が実用的であると判断した。

・観測点数が同じ場合、F−K法(周波数−波数法)はSPAC法に比べ周波数範囲が狭く、かつばらつく傾向が認められた。なお、F−K法の場合、SPAC法と同等の結果を得るためには、アレーサイズをSPAC法のそれより2倍程度大きくとる必要があることが判った。

・F−K法の場合は同一周波数において複数の位相速度が求められることがしばしばあり、既存データ等の先見的な情報がないとどちらを適切な値として採用するか難しい。また、F−K法による解析では、低周波数側において「縮重現象」がみられ、真の値よりも大きな位相速度が求まった。

・上述した2つの理由から、微動アレー調査の手法としては、SPAC法の方がF−K法より優れている。

・固有周期5〜8秒の範囲にある地震計のうち、LENNARTZ、MTKV、PELSの3種類の比較観測を実施した。設置作業、操作性、特性および分散曲線の形状等を総合的に検討した結果、LENNARTZ地震計が最も実用的であると判断した。

・観測時間の長さによる分散曲線の形状への影響について検討した。この結果、観測時間による形状の違いは特に認められず、基本的に観測は60分間で十分であると判断した。ただし、大アレー等による長周期成分の観測やノイズの混入の多い場合は、予め2倍程度の観測時間を設定する必要がある。

・微動のパワーは気圧変化や波浪変化などの気象・海象現象と密接な関係がある。深部構造の把握に必要な長周期成分の微動データは、海洋波浪が大きくなる冬季に集中して観測を行う方がデータの品質上有利である。

・冬季、夏季における微動データを比較・検討した結果、中・小アレーであれば観測は、年間を通して可能であり、特に観測時期の違いによる影響は認められなかった。

A位相速度解析に関して

・解析に供する1ブロックの長さについての検討を行った。その結果、中・小アレーではブロック長の違いによる影響は特に認められず、204.8秒ないし409.6秒で行うこととした。しかし、大アレーにおいては長周期成分側のデータ解析に影響を与えることから、調査地域における調査地点間の整合性、既存資料(地質、反射法等)との比較を行い、409.6秒で行う必要があると判断した。

・位相速度解析においてはESPAC法(拡張空間自己相関法;周波数を一定とし、アレーサイズを変数とした空間自己相関係数に最適なベッセル関数をあてはめる方法)とSPAC法の両方を併用して行い、クロスチェックをすることが最良と判断した。

B逆解析に関して

・fGAによる逆解析において、基盤深度の固定、S波速度の固定、4層モデル深度固定など、拘束条件を付加させた結果とフリー解析の結果との比較・検討を行った。フリー解析は歪みのない結果が得られ、最良であると判断した。なお、最適解の選出には試行回数10,000回の演算を10回繰り返し、10個の候補解の中から地質情報などとの整合性を総合的に判断することが適切である。

・反射法地震探査と微動アレー調査の両手法で得られた基盤深度の比較を行った。微動アレー調査では半径2,000mのアレーを設定して求めた平均値であることを考慮すると、両手法の結果には整合性があるものと判断した。