2−7−2 P波屈折法地震探査

バイブロサイス4台を震源とする夜間の屈折法発震により、堆積層上部および基盤の屈折波が確認された。基盤の屈折波の最大到達距離は、測線2では流山市南(SP.G)および松戸市下矢切(SP.E)の記録で約16km(測線長)であった。測線1はノイズレベルの高い市街地部分であったため、屈折波初動の到達距離は約10km程度であった。

測線1で4点、測線2で3点の発震点による屈折法地震探査を実施し、レイトレーシングによる屈折波初動走時の解析から、

・3層のP波速度構造モデル

が得られた。

レイトレーシングによる方法では、初動走時データだけでは速度構造モデルは一意的に求められないことから、この手法は何らかの拘束条件が必要である。測線1は、北西部で1997年度の活断層調査の測線(97−2)と交差しており、ここでは1998年度の調査測線と合わせて、レイトレーシングによる速度構造モデルを作成している。

また、測線2は、南端で1999年度の地下構造調査測線と交差し、こちらもモデルが作られている。

それぞれの測線について、交差する位置の速度構造を合わせ、屈折面については反射法の断面図上から追跡したものを初期モデルとして、主として速度を変化させながら最適なモデルを検討した。

この結果、次のことが明らかとなった。

・測線1で屈折法の解析から求まった基盤岩のP波速度は約5.2km/sであり、これとつながる1997〜1998年度測線のモデルの基盤岩P波速度約5.7km/sとは有意に異なる。この理由として、今年度の調査測線の基盤岩が異なることが考えられる。実際に船橋水位観測井やFR−18では、基盤岩は三波川帯とされるの対し、江東地殻活動観測井では秩父帯とされている。この違いが基盤岩速度に反映されているとすれば、三波川帯と秩父帯の違いは今回の測線と97年の船橋測線の間にあるものと推定される。ただし、現段階の解析法では、測線途中での基盤岩の速度変化がどこで生じているかを議論するだけの精度はない。

・測線2の基盤岩のP波速度は約5.5km/sであり、これは交差する1999年度の測線が、5.6〜5.7km/sと求まっていることとは誤差の範囲で一致している。

・1998年度・1999年度の測線で観測された基盤上面付近の屈折波と推定される速度約2.8km/sの波と同様な波は、今年度は観測されなかった。

・三浦層群上面に相当する屈折波が出現するであろう部分に、基盤の低角反射波が強い振幅で見られている。従って、高々400m程度層厚の三浦層群上面の反射波を識別するのが困難になっていると考えられる。

・昨年度、レイトレーシングの境界を基盤岩上面・上総層群上位にある境界(上総層群上面より100m程度下位の反射面、深度500m程度)の二つで分け、3層のモデルとしてレイトレーシングを行った。今年度も、同様の3層モデルでほぼ走時会わせを行うことができた。

・レイトレーシングで求まった下総層群のP波速度は、場所によらず1.6〜1.7km/s程度である。上総層群上位の境界直下の速度は2.0km/sから2.1km/s、三浦層群相当層で速度は2.1km/sから2.7km/s程度で、ほとんどの部分で深度とともに増加している。唯一、測線1の浦安市側では、上総層群下位〜三浦層群相当層での速度が2.1km/s程度と、横方向で比較するとかなり遅めの速度になっている。これは、重合速度からの区間速度でも同じ傾向がある。

・地表から堆積層の中程(深度約800m)までは、反射法の重合速度と屈折法モデルの速度差は、ほぼ0.1km/sの範囲内にある。このうち、深度約500mの屈折面直下では、重合速度が0.1〜0.2km/sほど遅くなる傾向がある。また、基盤の直上では、重合区間速度に比べて屈折法モデルの速度が0.2〜0.3km/s遅くなっている。屈折法モデル速度と下総観測井のVSP区間速度は、基盤岩を除いて良く一致しているが、VSP区間速度がなだらかに変化している深度約500mのモデル境界面の上下で、±0.2km/sほどずれている。

・屈折記録中で、オフセット距離約3kmまでの範囲で、堆積層中のS波の屈折波が認められた。速度は0.4km/sから0.9km/s程度まで徐々に変化しており、これは深度に換算しておよそ1000mまでに相当する。また、基盤岩のS波屈折波と考えられる速度約3km/sの波も認められた。