4 補足:微動アレー解析に関して

解析結果は一般に誤差によって評価される。SPAC法やF−K法の場合、その原理にはいくつかの仮定が含まれている。その仮定を必ずしも満たしていないことによる誤差をここでは「系統誤差」と呼ぶ。

系統誤差以外の誤差、すなわち「偶発誤差」は種々雑多な原因による微少な誤差の集積したもので、観測データに偶然含まれたり、解析過程で生じたりする誤差である。

微動から地下構造を推定するためには表面波が使われる。それに関わる誤差を理解するために、表面波について反射波や屈折波との違いを手短に記しておく。

反射法や屈折法で使う波の場合、地下構造の各層の存在は、それぞれの波の振幅や走時という「位相」によって認識する。反射法では、波の振幅や走時は、波が「境界面にスネルの法則に基づいて入射し」反射波を生む境界面の2つの層のインピーダンス(=密度×速度)がそれらに関係する。また屈折法では、屈折波を生む境界面の2つの層の速度比が関係する。すなわち、相対的に速度大の層に屈折して入射した波のうち「境界面に沿って進む位相」と上層へ「反射していく波の位相」によって一種の回折波が生まれるが、その回折波の生まれる条件に2つの層の速度比が関係する。

表面波は種々の波長の波からできている。表面波の場合、各層の存在は「地表面に直交し、かつ層の境界にも直交する波面をもって進む」波の「波長」によって認識する。ある波長に注目すると、その波長の表面波が単一の層だけを認識することはなく、一般に複数の層を「一塊り」で認識する。すなわち、その波長と同程度の長さの中に入る複数の層の間の速度比が関係して、その波長の伝わる速度(=位相速度)を決めている。表面波に「分散現象」が生じるのはそのためである。「一塊り」の幅(関与する層の数)や各層の影響の度合いは波長によって異なる。したがって通常の地震探査に比べて、位相速度対周波数(周期)の関係である分散(dispersion)から推定される層の分解能は低い。これによる誤差は、ここでは「系統誤差」に含められる。

微動のアレー観測から地下構造を推定する場合、推定量となる種々のパラメータに含まれる「偶発誤差」と「系統誤差」は原理的に分離不可能である。推定量には必ず「系統誤差」が含まれる。その代表的なものが「地下構造の不均質性」であり、これがしばしば「偶発誤差」をはるかに凌ぐ大きなものになる。この種の「系統誤差」を定量的に評価することは不可能なため、結果として「偶発誤差」を評価することも不可能である。

今回のように微動の観測データから地下構造を推定する時の誤差をどう考えるかを以下に要約する。

周知のように微動観測のデータは確立変数であり、また「微動という母集団」からの標本データである。確率変数の統計的性質を標本データから厳密に決定することは不可能である。標本データから目的とするパラメータ(ここでは、たとえば空間自己相関係数や位相速度など)を推定する場合、微動探査の基本原理に沿って推定する限り、パラメータが「間違っている」ということはない。その推定値が他のものに比べて「良い」推定値かまたは「より良い」推定値であればよい。

微動データという確率変数の集まり、すなわち不規則な時系列データを取り扱う場合、一般に推定値の「質」や「良さ」の決め手になるのは次の3要素である。

1) 第一に、推定値の期待値(あるいは平均値ともいう)がそのパラメータに等しいことが望ましい。すなわち、

式4−1

であるという。

2) 第二に、推定値の2乗平均誤差が他のすべての推定量よりも小さいことが望ましい。すなわち、

式4−2

もしこのことが言えるなら、その推定値は他のすべての推定量より有効な値であるという。

3) 第三に、標本の大きさが大きくなるにつれて、推定量は確率1で推定されるべきパラメータに近づくことが望ましい。すなわち、任意のε>0に対して、

式4−3

微動のような確率変数のこれらの推定量あるいはパラメータは、一般にその確率密度関数の形が分からないので厳密に決めることはできない。したがって有限個の値、すなわち標本データからこれらの推定量あるいはパラメータを推定しなければならない。

微動データという確率変数の集まり、すなわち不規則な時系列データからの推定量は、一般に「より良い」平均値とその分散(variance)によって特徴づけられる。したがって、今回の解析での主要なパラメータは、空間自己相関関数、空間自己相関係数、位相速度であるが、これらについてはそれぞれ期待値(平均値)として、また空間自己相関関数および空間自己相関係数の分散については、標本分散の平方根(注:通称これを標準誤差と呼ぶが、いわゆる不偏標準偏差ではない)として求めた。なお、位相速度の分散(variance)については、標準偏差の代用として、観測からの推定位相速度をcobs、空間自己相関係数の定義式にもとづく理論位相速度をccalとするとき、|cobs−ccal|を極小とする条件で得られる値をccalで規格化し、一種の「相対誤差」として求めた。それを式で表すと次のようになる。

ただし、

式4−4

εiの式表現は、位相速度cの微小変化c → c +δc(|δc/c|<<1)に対する、空間自己相関係数ρ(r,f)=J(2πrf/c)の変分Δρを取ることにより得られる。すなわち、

式4−5

誤差の計算にあたり、Δρの値としては、ESPAC法に係る空間自己相関係数の残差を用いた。つまり、観測データを処理して求めた観測値ρiobsと、ESPAC法で得られた観測位相速度c=c(f)に対する理論値ρical=ρcal(ri,f)とを使って、距離ri、周波数fごとにΔρ=ρiobs−ρicalを計算した。

 重み係数について、本解析では便宜上、空間自己相関係数の標準偏差δρiobs

=δρiobs(ri,f)を用いて、

式4−6

のように定義した。

なお、相対誤差の大きい位相速度は、地下構造の逆解析に必ずしも使う必要はない。上に述べたように、表面波のある波長の波は地下構造のどれかの層と1対1に対応してはいないからである。今回の解析では、周波数(周期または波長)についてかなり密に位相速度が求められているため、相対的に「相対誤差」の大きいと思われる周波数の位相速度をある程度間引きしても、地下構造の逆解析には影響しない。