3−3 今後の課題

地震探査に関しては、以下の課題が上げられる。

・地下構造を明らかにする手法として、反射法地震探査の有効性が検討できた。今後、既存調査の再評価と追加調査によって当地域の地下構造を明らかにしていくことが必要である。

・反射法断面図の反射波の現れ方の違いを地下の地質の違いと結びつけるには、まずそれが発震点状況・ノイズ状況の違いでないことを明確にすることが必要である。

・発震点の地表状況と得られる記録の状況の関係については、これまでの調査結果をまとめておく必要がある。ノイズレベルの高い区間では、震源として大型バイブロサイスを用い、受振器は交通量の多い道路を避けて設置することが望ましい。

・上総層群と下総層群の境界の下位、深度約500mに屈折法の境界面が求められた。反射法では両境界はそれぞれ反射面となっているが、坑井データからはどちらの境界も顕著な物性境界とはなっていない。屈折面の生じる原因について究明する必要がある。

・反射法および屈折法で求められたP波速度には、若干の相違が見られるが、それぞれの手法による信頼性を評価しながら速度構造モデルを構築していく必要がある。

・バイブロサイス震源による屈折法地震探査の垂直成分記録中にS波の基盤屈折波と思われる波が観測されている。これを三成分受振器での観測により、確認する必要がある。

・屈折法地震探査の記録中には、堆積層中をP波で伝わり、基盤内でS波に変換し、再度P波となって地表に到達したと思われる屈折波が観測されている。これも三成分受振器での観測により、確認する必要がある。

・バイブロサイス震源による反射法地震探査の三成分受振器の記録で浅層部のS波反射波が観測されている。この調査方法で、より深部までのS波速度構造を求めるテストが望まれる。

微動アレー調査については、次のような課題がある。

・今回得られた「千葉県地域における代表的な分散曲線のパターンと適切な観測アレー半径との関係(図3−14)」を考察すると、アレー半径は地域に応じてある程度自在に設計できそうに見える。今後観測の効率化を図るためには、アレー半径がある種の関係を参照すれば容易に設計できるという環境が欲しい。例えば「分散曲線のタイプと地域および地下構造との関係」についてのデータベースを構築する、などは実施可能な案として考えられる。一地域の調査結果にとらわれず、広く他地域の調査結果についてもデータ交換を進めるべきであろう。

・観測データから推定された結果は、多くの場合「偶発誤差」で評価されるが、今回のように、微動の観測データから地下構造を推定する場合、その推定量については「偶発誤差」を知ることはできない。その場合の「誤差」とは何か、それをどう考えるかは、今回の調査における重要な課題の一つである。これについては、説明がやや長くなるため「補足」に記す。

・アレー半径がより大きい場合、S波速度は相対的に大きくなる傾向がみられた。また、1ブロック長がより長くなった場合にもその傾向が全地点のおよそ2/3の割合でみられた。

微動アレー調査の解析においては仮定条件が存在しているため、この問題についての解決は、観測を1アレー重点主義でなく、ある幅を持った測線で円形アレーの何割かを重複させながら観測し、それぞれのアレーから推定される地下構造を測線全体で最適なものになるように調節する。すなわち、解析過程の中に一種の「フィードバック」法が必要であり、今後の検討課題となる。

また、大アレーの解析を行う際に、あらかじめ長周期成分だけを残すようなローパス・フィルターを微動の生データにかけ、低周波数領域だけの解析を行う方法を採用するなどしてより適切な解析を行う必要があると考えられる。

さらに、現在、最下層として解析している基盤よりも深い場所に、S波速度3.0km/s前後のダミー層を仮定し、この値を固定させて解析を行うことにより、これよりも上位層の深度およびS波速度を決めていく方法によって、現時点で未確定となっている基盤のS波速度を確定させる方法も検討していく必要があると考える。

・長周期成分の波は観測できる期間について限定されることも予想され、春季、夏季および秋季ではどのようであるかを調査しておくことが必要である。また、短周期成分についても、冬季とそれ以外の時期ではどのような関係にあるかを把握する必要があると考える。より効果的な微動観測を行うためには、本地域における年間の海洋波浪・気象分析を通じて最適な実施時期を検討することが必要と考える。

以上のような課題があげられるが、今後のデータの蓄積により、それぞれの手法の確立・対比・適用場所・適用範囲等について検討していく必要がある。